第408話 クロスステッチの魔女、温泉宿を堪能する

 カリラとは何度か飲み交わしながら、私たちは冬を楽しく過ごした。温泉に入り、おいしいものを食べて、時折外貨稼ぎにちょっとした魔法をマルヤやカリラに売ったりもした。お金は無限に湧いてくるわけでもなし、魔女組合はないわけではないが遠い。稀に行って、糸や布を売ったりもした。時間は沢山あるし、あまりうるさい作業にはならない。温泉に入ってゆっくりもできたからか、それなりにいいものが作れた。


「クロスステッチの四等級魔女さん、これはいい糸ですね。ちょっと報酬を上乗せしておきますよ」


「やったあ、ありがとうございます!」


 ニョルムルでは、はっきり言って何をするにもお金がかかる。それに慣れてきた代わりに、自分の所持金が案外物足りないことにも気づいてのことだった。パンに食事のお金、飲み物、寝る場所に遊び場所……王都のようにお金がよくかかるけれど、物々交換をするには人が多くて難しいのだろう。そう思うと仕方ないことだったし、きっと発展した街ではどこもかしこも同じようになるのだろうと思ったりもしていた。


「あの素敵なゴブレットを買うのには、まだかかりそうね……」


「ミルドレット様だったら、きっとすぐに買っていたんじゃないですか?」


「嫌よ、だって私、せっかくニョルムルにいるんだから温泉蒸しパンが食べたいわ」


 というわけで、元手になるものをもうちょっと用意してから買おうと決めていたのだ。財布の中身をすべてすっからかんにすればもう買えるけれど、糸や布を作って組合に納めるにも、原料のお金がかかるものもある。だから、まだ簡単には買えなかった。時々店に行って、あの美しいゴブレットを眺めさせてもらったり、お酒を買ったりもした。


「あるじさま、やっぱりあのゴブレットは綺麗ですね」


「ええ。そのうち私のものにしたいけれど、そのためにはもうちょっとお金がねー……」


「主様ったら、お休みに来たはずなのに忙しいー!」


「そうねえ、そういえばなんでこんなことになってるのかしら」


 くすくすとそんな話をして笑いあって店を出ようとしたら、雪がひどくなってきていた。


「魔女様、雪が落ち着くまでお店にとどまってはいかがでしょうか」


「そうね、無理に帰ったらびしょびしょに濡れてしまいそうだし、そうするわ」


 音のない雪の光景を木窓の隙間から眺めながら、店員が厚意で出してくれた温かいお酒を少し飲んだりもした。


「もうすぐ吹雪がひどくなる時期になります。落ち着くまでは、お宿でゆっくりされるのがよいでしょう」


 そう言った店員の言葉に、私は頷いた。

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