第407話 クロスステッチの魔女、楽しい酒盛りをする

 酒盛りは楽しいものだった。いつの間にかマルヤが、私がカリラの部屋でお酒を飲んでいることに気付いたのだろう。二人分のパンやチーズ、それに塩漬け魚を持ってきてくれていた。


「カリラ、魔女様にあんまり失礼なことをしちゃあだめよ?」


「わぁってるって、マルヤも心配が過ぎるんだから」


 ひらひらと手を振ったカリラが、ついでに酒のおかわりを注文していった。マルヤが「はあい、ちょっとお待ちを」と言ってしばらくすると、今度は葡萄酒の瓶を持って現れる。


「ここはそれほど宿賃も高くないのに、パンもうまいし酒を選ぶ趣味がいいんだ。もっと安いところになると軒先しか貸してくれないが、ああいうのは泊まった気にならないんだよねえ」


「そういう宿もあるものねぇ。私はそういう宿はそこまでいかないのよ。屋根だけならわざわざお金を払わなくても、木の上にでも寝ればいいわけだし」


 私の何気ない発言に、カリラはツボに入ったようだった。大声をあげて笑いながら、さっきより強いだろうに葡萄酒を一気に煽る。戦士には酒飲みが多いというのを実感しながら一口飲んでみると、甘くて飲みやすい葡萄酒だった。


「魔女様といえばお姫様のように豪華な暮らしをしているって思ってたのに、木の上に寝る魔女様か! 考えてみたら、こんなところに泊まってもいるしなあ!」


「カリラ、うちの宿が貧相ってことかしら?」


「違うさマルヤ!」


 追加のパンを持ってきたマルヤに咎められて、カリラが慌てて顔の前で手を振っていた。付き合いが長いからこそのやり取りに、私はくすくすと笑みをこぼす。


「魔女には確かに、元々お姫様のような暮らしをしていた女が多いけれどね。それだけじゃないのよ。私は山奥で育った田舎娘で、近くには温泉が湧いていたからこういう場所は大好きなの」


「はーっ、世間って色々なんだなあ!」


 感心した様子のカリラに「お姫様みたいな魔女は確かに沢山いるわよ」と付け加えて、今度はパンをかじった。中に牛の干し肉が挟まっているサンドイッチで、塩気が葡萄酒によくあっている。


「酒器をねえ、今日、いいのを見つけたんだけれど……簡単に買える値段のものじゃあないから、今日は買えなかったのよ。でも、こういうときに、あの素敵なゴブレットがあればなあ、って思ってしまうのよね」


「ああ、あるねえ。そういう素敵なもの! あたしも相棒を手に入れようと思った時は随分と苦労をしたし、鍛冶屋の親父とも喧嘩したものさ!」


 カリラはそう言って、ハルバードに目を向けた。

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