第409話 クロスステッチの魔女、雪がやむのを待つ
「いやー……吹雪が酷いわね」
「これは長引くでしょうねえ」
「わあ、すごぉい」
窓の外から、ガタガタと音がする。店に遊びに来る時には見えなかった雪雲は、思っていたよりも強い吹雪をもたらしに来ていたようだ。温泉のお湯も、雪によって冷めてしまうのかもしれない。
「箒にでも乗れば帰れるかもしれないけれど、無理に帰ったら後が大変そうなのよね……これ……」
「間違いなく全身びしょびしょになって、人間であれば風邪を引いてしまいますね。マスターは魔女ですから、大丈夫でしょうけど」
「こういう日は、外を歩く人に近くの家や店の軒先を貸して、雪がやむまで皆で待つんですよ」
店員はそう言いながら、私に温めた香辛料入りの葡萄酒をくれた。体を内側から温める飲み物は、こんな寒い日にこそありがたい。
「魔女様は、あまり音に驚いておられませんな。外から聞こえてくる吹雪の音に、慄く人も多いのですが」
私はその言葉に、「元々、雪が多い地域の出身なの」と返して、もう一口葡萄酒を飲んだ。
「雪が沢山降る地域だったから、冬はこもってやり過ごすものだと思っていたんだけどね。お師匠様には、今年の冬は家の外で過ごしてみるように、と言いつけられていて、ここに来てみたの」
「なるほど、そうでございましたか。それなりに雪が降った後でも、何一つ気にせず平然とお店に来られるとは思っておりましたが……」
箒で来られたのかと思っておりました、と言いながら、店員も自分の器に注いだ葡萄酒を一口飲んだ。
「これくらいの距離なら、気にせず歩いてきちゃうわ。いちいち乗って降りるのも、ちょっと面倒だしね」
「確かに言われてみたら、同じニョルムルの町中ですものねえ」
アワユキは吹雪に対して外に出たくてうずうずしているようだったけれど、私がそれを抑えて止めていた。精霊だった頃には同族たちと楽しく遊んでいるようなものだったのだろうけれど、今の状態で吹雪の中に出ていけばどこまで飛ばされてしまうことか。それに、ぬいぐるみの体も雪でぐしょぐしょに濡れて傷んでしまうから、アワユキには悪いけれど吹雪の間は屋内にとどまっていてほしかった。ルイスとキャロルは、さすがに外からガタガタと木窓を鳴らす音に驚いているのか、私の服をきゅっと掴んで大人しくしている。
「雪雲は気にして出てきたつもりだったんだけれど、これは止むのに時間がかかりそうね……」
「そうですね。夜までかかるようでしたら、お夕食を振る舞いますよ」
それはそれで、ちょっと気になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます