第405話 クロスステッチの魔女、盛り上がる

 かんぱーい、とカリラとコップを打ち合わせた時、改めてしっかり顔を見た。北国由来の真っ白い肌には服の上からもいくつか傷跡を見てとることができて、しかし本人はむしろ誇るように薄手の服を着ている。おそらく本当に、傷を気にしてもなければ寒くもないのだろう。枯れ草に似た薄い色の髪を乱暴にひとつに束ね、氷に似た青い色の瞳をしていた。そしてよく鍛えられた体は、私とは骨の太さから違うだろうとよくわかる。女らしさはまったくないのだけれど、醜いとは思わなかった。


「あー、本当はもっと強い酒にしたいんだけど、中々難しいんですよね」


「私にはこれくらいの強さの方が、飲みやすいわ」


 私が飲んでみたカリラの蜂蜜酒の味は、買って飲んだ味よりも素朴で飲みやすいものどった。強くないから一気に飲めてしまいそうなので、勿体無いからそうしたい気持ちを押し留めている。


「材料を革袋に入れて、揺すって持ち歩いてる間にできると言えばチーズだけだと思ってたわ。でも考えてみたら、蜂蜜と水を入れて置いておけばお酒になるんだし、それを持ち歩こうと思えばこうなるのね」


「店売りの酒は運んでる間に味が変わるものもあるって話でして。あたしの酒好きな仕事仲間は、そういうところを優先して回りながら仕事してるって言ってましたよ。季節になれば、酒を運ぶ商人が護衛を欲しがりますし、理にかなってる」


「趣味と実益兼ねちゃってたら、やめる理由もないものねえ」


 などと頷きながら、もう一口飲んでいると、カリラは小さく切られたチーズも分けてくれた。いいの?と聞いてみると、快く頷かれる。笑いながら、彼女は不揃いなチーズを手で示し、上品な口調を作りながら言った。


「これは牛乳を入れてた袋から、うっかり生まれたチーズでございます」


 思ってたよりもお酒が回ってきたらしい私がツボに入って笑ってる姿に、ルイスがびくっとした。しかし笑ってるから、問題ないらしいと判断したらしくにこにことしている。


「よかったですね、マスター」


「小さいお連れ様達も、問題なければどうぞ」


「わーい!」


 真っ先にアワユキがチーズに手を出し、他の二人もひとつずつつまむ。私もひとつもらってみると、偶然生まれたからか塩がほとんど入ってないようだった。ほとんど乳の味で、チーズらしからぬ甘みにまた笑ってしまう。店売りの酒とこの蜂蜜酒で、思っていたより酔いがあったのだろう。とはいえ、楽しく飲めて話せるなら、問題はなかった。

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