第404話 クロスステッチの魔女、部屋に招かれる


 カリラは段々私に慣れてきてくれたようで、お湯に浸かっているうちに「魔女様さえよければ、部屋に来てくださいませんか?」とまで言ってくれた。


「あら、いいの?」


「あたしの作った蜂蜜酒があるんです。よかったら、魔女様にも飲んでほしくて」


「それなら、お邪魔しようかしら」


 カリラの部屋は私が泊まっている部屋のふたつ隣で、彼女は毎年この部屋に泊まってるのだと教えてくれた。お風呂から上がり、ルイス達についた水滴もちゃんと拭いてから服を着直すと、カリラに手招きされて彼女の部屋に入る。

 部屋の大きさは私のものと変わらなくて、ただ、私の方が角部屋なので窓の数だけは違っていた。彼女はあまり物を持ち歩かない性質のようで、ツギハギだらけのずた袋がひとつと大きな武器がひとつ、それから革鎧がひとつあるだけだった。武器と防具はどちらもよく使い込まれていて、傷も多いのが歴戦の証だった。


「あの大きな武器はなんて言うの? 斧に……槍?」


「ああ、あれはハルバードって言ってね。槍の先端に斧がついてるから、便利なんです。突いてよし、斬ってよし、凪ぎ払ってもよし、あの爪に引っかけてもよし、と万能なあたしの相棒です」


「かっこいいです……!」


 ルイスは男の子らしくかっこいい武器が気になるようで、ルイスから分かれた核のキャロルと好奇心の塊のアワユキと三人でそーっと近づいてみていた。止めようとすると、カリラは「危ないから見るだけにしなよ」とだけ言って止めなかったので、そのまま三人に見学させてもらうことにする。


「明日には、あいつもここの鍛冶屋でピカピカにしてもらう予定でね。いい巡り合わせだね……それにしても、楽しそうだ」


「私もあんな顔、あんまり見たこともないかも。親しい間柄に戦士はそんなにいないし……ああ、ルイスは同じ《ドール》の子から剣を習っているけど、普通の長剣だからかもね」


 グレイシアお姉様のところなら、ハルバードを使う《ドール》もいそうだった。というか、私が忘れてるだけでいた可能性もある。よく見ると斧頭や柄の部分には何かの紋様が彫り込まれていて、武骨な中にも優美が合わさっていた。


「魔女様、コップを出してください」


「はーい」


 私も観察させてもらっていると、カリラが革袋を揺らした。差し出したコップに蜂蜜酒が注がれる。


「えー、……乾杯の言葉は招いた側が言うんだったな。ええと……ニョルムルの温泉と、蜂蜜酒と、あたしらの出会いに、乾杯!」


「乾杯」

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