第401話 クロスステッチの魔女、目標を得る
美しいゴブレットは、いわく、遠い外国からやってきたものだと言う。焼き物の中では丈夫な部類で、その国特有の釉薬によって虹色にきらめくという。
「なのでまた、値段はこれくらいしますが……」
すっと差し出された値札には、今後の生活で飲み食いする余裕がなくなりそうなほどの値段がついていた。やばい。こんなの今買ったら本当に暮らせなくなる。これに相当するものを物々交換できるあてもない。
「店内の酒器の中では、一番高価なものでございます。さすが魔女様、お目が高い」
「ひえ……、こ、この辺の方がもっと高価なのではないんですか……?」
そう言って示した綺麗な細い細工のついたゴブレットを指し示すと、店員は笑って「それは隣の国の職人の品物ですから」と答えた。
「遠い国からの渡り物は、どうしても運んでくるための手間賃がかかってしまいますからね。おそらく元の国でも安くはない品物ですが、さらに運び賃がかかってしまって、どうしても」
「それは……仕方ないわね……」
言われてみたら納得しかなかった。隣の国から運んでくるのと、もっと遠くから渡ってきたのとでは、勝手が違うのは仕方のないことだ。納得はできる。する。それはそれとして、欲しいという心と高いという心で揺れていた。
「これほどの値段ですから、すぐに誰かが買われるようなものではあまりありません。改めてお越しいただいて、それで決められてもいいと思いますよ」
「確かに……そうしようかしら……」
「でもマスター、これ、とってもお綺麗ですよね」
「きらきらしてて好きー」
三人にも言われてしまって、私は「そうね……」としか言えなくなってしまった。これでお酒を飲むのは楽しい。でも、簡単に買えるものではない。つまり、稼ぐのがいいだろう。
「じゃあ、また見に来ていいかしら?」
「ええ、どうぞ。きっと、このゴブレットのお嬢さんも喜んでくださりますよ」
「今日はいつものこれで飲むことにするわ」
私がコップを揺らしながらそう言うと、店員は「よいお時間を楽しんでください」と笑った。
「それじゃあそろそろ、お暇しますね」
「ええ。また、お酒でもゴブレットを見に来るでも、お越しください」
一礼した彼にそう言われて、私達は店を出た。
「いいお店だったわね。帰ったら、飲むのが楽しみだわ」
「マスター、あの素敵なゴブレットが手に入れられるといいですね!」
「また行きたーい」
「他のお酒も、おもしろそうでした」
四人であれこれと話をしながら、私たちは通りをまた歩き出した。
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