第396話 クロスステッチの魔女、温泉街を散策する
私達は会計をしてから気持ちよく彼と別れて、石鹸屋を出た。まだ他にも、見たいものは沢山あるからだ。
「よかったら、また来てください」
「ええ! そうさせてもらうわ」
この街には、お店が沢山ある。その分お金や物々交換も盛んで、今日も賑わっていた。
「マスター、お目当ての石鹸は買えましたけどこの後はどうされるんです?」
「どうしようかしら。せっかくだから、目的もなくうろうろしてみようかなとは思っているかも」
「それは良いかもしれませんね。ここにはどんな店や場所があるのか、まだ全然見られていませんし」
「たのしそー!」
《ドール》達と楽しく話している私は、一目で魔女とわかるだろう。だから、ぶつからないように人々は気にしてくれている。
「魔女様も温泉入るんだねぇ……」
「お人形様達も楽しそう」
「さすがはニョルムル、すごいお客様だ」
ちらちらと聞こえてくる言葉は、魔女があまりいない地域から人のものかと思いながら、私達は自分たちの好きなように街中を散策していた。道に迷ったとしても魔法もあるし、なんとかなるだろうと気楽に歩くことができる。
「海を渡ってきた珍しい道具だよぉ。何に使うかはわからんが、見ていたって面白い!」
「丈夫な毛皮はいらんかね、温泉街だって冬は寒いぞー!」
「布ー、揃えているよー! 肌着にするにも、体を拭くにも! 安くしておくよぉ!」
賑やかな物売りの、小さな店が立ち並ぶ一角まで来た。ニョルムルには長逗留をする人もいるからか、布や毛皮といった自分の服にするものまで売っている。謎の道具を色々と並べている店はちらりと覗いてみたけれど、私にもわからないものばかりだった。布はそのうち必要になるかもしれないので、その時はここで買おうと覚えておくことにする。
「食べ物の屋台ばかりじゃあないんですね」
「そうみたい。一番安い宿は寝床しか貸さないらしいから、そういうところに泊まる人が鍋とか普通の野菜を買って行くんじゃないかしら」
寝る場所だけは確保されている宿で、食事は全部自分で用意する形式の場所もあるらしい。これは、人間だった頃に誰かから聞いていた話だった。運がいいと、宿屋の庭で足くらいは湯につかれるとか。
「お昼は何にしようかしら。せっかくだから屋台でも、って宿の人には言っちゃったしね」
「温泉蒸しパンの、他の味を食べてみるのはどうですか?」
「たしかに! じゃあ、目についた屋台に行ってみましょうか」
温泉蒸しパンはニョルムルの売りらしく、あちこちに小さな屋台がある。一番手近なところに立ち寄ると、小さく切った芋を混ぜたものを出してくれた。
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