第384話 クロスステッチの魔女、糸紡ぎを教える

 秋の間、ほとんどずっと飛んだり採取したりしていた。途中でふとそれのことを思い出したのは、小さな宿屋で雨が止むまで泊まっていた時のことだった。


「前に教えると言って、それっきりになってしまっていたわね。雨は数日止まないみたいだし、今日はみんなに糸紡ぎを教えてあげるわ」


「わーい!」



 私がルイスたちの前に広げたのは、前に買っていた普通のスピンドルと普通の羊毛だった。その横で、私自身がいつも使っている魔法のあるスピンドルと魔羊の毛を並べる。ルイスは興味津々と言う顔で覗き込んでいて、キャロルは羊毛をつついていて、アワユキは鼻面を羊毛に入れている。


「それじゃあ、やり方を話すわね。まず羊毛をこの小さな櫛で梳かして、毛並みを整えるわ」


 私が目の前でやってみせたものを、代表してルイスが真似た。小さな手に櫛を持って羊毛の流れを整えているのを、キャロルやアワユキが小さな手でさらに手伝った。


「こんな感じ、です、かね?」


「あるじさまのとはちょっと違います?」


「最初だし、こんなもので大丈夫よ」


 私はそう言って、自分の分の羊毛を少し引き出し、撚り合わせる。これはキャロルが上手に引き出してくれて、アワユキが小さな手で撚り合わせてみせた。


「こんな感じー?」


「こんな感じよ」


 スピンドルの先端に糸を取り付けるのは、私の手つきを真似てルイスがやった。


「で、ここからスピンドルをくるくる回す。その間、羊毛が糸の形になるようにねじりながら抑えてもおかないもいけないの。あなた達は、役割を決めて分担したほうがいいかもね」


「よーし、どうします?」


「アワユキはくるくるするー! くるくるするのやるー!」


 真っ先に手を挙げたのは、予想通りアワユキだった。キャロルが糸の形になるようねじりながら整える羊毛は、ルイスが持っておく形に決まった。


「よーし、やろやろー!」


「ルイスとキャロルも大丈夫? 三人とも、初めてだから気軽にやってみようか。じゃあ、始め!」


 私が軽く手を叩いてそう合図をすると、アワユキがスピンドルを小さな手で回し始める。キャロルが羊毛を抑えて捻じるのはうまくできていないから、糸は太いしこぶも多いし、このままでは真っ当に使えないようなものだろう。私が初めて紡いだのもそんな糸だったことを、ぼんやり思い出していた。


『こんなに無駄にして! 糸紡ぎくらいさっさとできるようになさい!』


 かつてそう言われた記憶はあるけれど、同じ言葉を出そうとは思わなかった。


「三人とも、ありがとうね」


 私も許された気がした。

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