第378話 クロスステッチの魔女、フェルトを扱う
キャロルに着せる外套を作るのに、何日かかかった。早く着せてやりたくて、それには人との関わりがなんだか少し煩わしくて、適当な森に数日野宿をする。
「あんまり裁縫は得意じゃないけど、刺繍の方は大丈夫なはず。外套が飛んでる途中に分解とか、しないといいんだけど……」
「そんなことありませんよ、マスターは素敵な魔女です」
ルイスに励まされながら、私は針を動かした。魔羊の毛を絡めて板にしたフェルトはある程度持っていたから、その一部を夜墨袋の墨で黒く染める。どうせ何日か留まるのだからと、染めている間にフェルトを作り足しもした。糸にするかフェルトにするか迷ってカバンに入れていた魔羊毛を、旅先で体を洗うのに持ち歩いている石鹸を少し削って溶かした水に入れる。魔女はほぼ一人で旅をするのに、どうして鍋を二つも三つも持っているのか。理由はこれだった。
鍋のひとつでシチューを、別のひとつで染色をする。みっつめの鍋ではフェルトを作るために石鹸水を温めていて、その間に私は羊毛を何層かに分けて重ねていた。これを押し潰す形で、これからフェルトになるのだ。
「フェルトって、作れるんですね……」
「普通の布だって、糸を織っているじゃない。魔女の魔法の素材になるものなんだから、魔法でしか作れなかったら意味ないわ」
魔法で温めた石鹸水が程よく温まったら、羊毛を広げていた板の上に少しずつ石鹸水をかけて羊毛を擦った。こうすることで毛が絡み合い、一枚のフェルトになるのだ。
「アワユキも! アワユキもごしごしやる!」
「僕も! あとキャロルも!」
それが面白い光景に見えたらしいアワユキ達に擦り方を教えてやりながら、しばらくごしごしとやり続けた。時折石鹸水を追加で濡らしてやりながら擦っていると、そのうち硬くなった部分が現れる。あまり大きいものは使っていなかったから、日が暮れるまでには作り上げることができた。
「よーし、あとは乾けばフェルトは完成よ! みんな、手伝ってくれてありがとうね。明日は染めてた方に刺繍をして外套を作って……やることは多いから、早く起こしてね」
「はあい」
「わかりました、マスター」
作ったフェルトを木に吊り下げてた網に入れて乾かし、私たちは寝る支度をする。
「あるじさま、こちらのお鍋は?」
「そっちは夜空を水面に映してやる必要があるから、このまま一晩置いておくのよ」
そんな話をしながら眠りにつけば、翌日には綺麗な黒に染まったフェルトと、多少ムラが大きいけれどしっかりしたフェルトができていた。
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