第377話 クロスステッチの魔女、《庭》の手入れをする
必要な素材になる草を何種類か採った時、熟した種を見つけることができたのは幸運だった。そのまま植え替えてももちろん育つけれど、種から植えた方が私の《庭》の魔力を吸い上げてよく馴染む。もっと濃い魔力を含んだものが必要であれば採りに行くのは変わらないけれど、普段使いならこれで事足りそうだった。
「キャロルは早速お手柄ね」
「えへへ、ありがとうございます」
小さな体を活かして見つけてくれたキャロルを褒めてやって、私は《庭》の入っている箱の蓋を開けた。たちまち、私の足元の植物たちが山のものから私が植えていたものに変わる。
「んー、この辺は収穫していこう。種を残しておいて、空いたところに今回の種を植えておくのがいいかな」
何種類かの草花が狙い通りに魔力を含んで青々としているのを、丁寧に土から抜いた。根っこに土をつけたまま保管しておくためのものと、根っこから花まですべてを使って染料にするものとを選り分ける。
「あるじさまは、何をしているんです?」
「ちょっとサボっちゃっていたから、収穫作業をねー……これは干しておきたいんだけど、箒にぶら下げておいたら乾くかなあ」
家だったら吊るしておけばすぐに済む話だけれど、ここは旅先。こういう時にどうするかも、自分で考えなくてはならない。とりあえず、箒の房にリボンで括り付けておくことにした。この日色花は、お日様の光で干しておいた方がいい染料になるのだ。
「マスター、僕たちに手伝えることはありますか?」
「じゃあ、この種を蒔いてくれるかしら? 少し土の上に穴を開けて、そこに種をひと粒。そしたら軽く土を被せてやるの。あんまり近いとうまく育たないから、キャロルの腕くらいの長さの間隔を開けてあげてね」
「「はあい」」
ルイスとキャロルが拾いたての種を小さい手に握り込んで、土の見えている一角に蒔きにいったのを私はなんとなく見ていた。
(そういえば人間だった頃、ひとつだけそのあたりにない草が生えてたりするのは魔女の仕業って言われていたっけ)
時折、山の草が森に生えていたり、その逆があることがある。大方鳥の仕業なのだろうけれど、故郷ではそういう草を指して『魔女の落とし物』と言っていた。けれどこれは本当に、魔女の仕業なのかもしれない。今ここで私があちこちから集めてきた草の種の一部を落とし、それが育てば、『魔女の落とし物』になりそうな気がした。
「マスター、植え終わりましたー」
「できましたー」
そんなことを考えている間に種蒔きが終わったようなので、私は《庭》を閉じてまた移動することにした。
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