第379話 クロスステッチの魔女、針仕事をする

 翌朝、お天気は気持ちよく晴れていた。箒で空を少し飛んでみても、怪しい雲はない。このまま今の場所で、やれることはやってしまおうと決めた。


「あるじさま、今日は何をするんです?」


「やることは沢山あるし、物によってはみんなに手伝って……あっ」


 着替えに手を伸ばした時、悲しいことに気づいた。枝ででも引っ掛けたのか、服の裾に鉤裂きができている。幸いなことに、刺繍は無事だった。


「やること増えちゃった……先にここを直さないと……」


「マスター、あの、ここ、お部屋とかじゃないですから、いつまでも下着でいるのはどうかと思いますっ」


 そのまま直してから着替えたかったものの、ルイスに言われて思い直した。道が獣道くらいしかないからあまり人の出入りもないし、大丈夫かと思っていたけれど。着てからでも直せる部分だったこともあり、まずは着替えることにした。


「獣くらいしかいないような場所とはいえ、一応気を付けておくべきだったわね。ありがとう」


 ルイスの頭を撫でてやってから、軽い朝ごはんにして、私は先に外套の刺繍にとりかかることにした。糸は今回の分には足りるけど、心もとないから近いうちに紡いでもおかないと。冬の支度をそれほどしなくていい状態とはいえ、

結局何かと忙しくしているような気がする。具合のいい倒木に腰掛けて針を動かしていると、《ドール》達が手伝えることはないかと聞いてきてくれた。


「それなら、糸紡ぎの準備をしておいて……あ、せっかくだからやってもらうのもいいかもしれないわね。魔力のあるものは多分使えないけど、普通の糸はいくらあっても足りないものだし」


「! 新しいお仕事!」


「糸紡ぎってどうやるんです?」


「ぐるぐるしたーい!」


 三者三様の反応が思ったより好意的だったので、何気なく呟いたことを本気でやってもらおうかという気にもなってきた。小さなスピンドルはないし、糸車はさすがに持ち歩いていないので、カバンの中をごそごそと漁る。私のスピンドル自体は魔法がなくても使えるはずだったけど、確認しておかないとと思った。


「ちょっと待ってね、このスピンドルを触っても魔力が吸われないかだけ先に試しておいてくれる? 大丈夫だったら、教えるからやってもらうわ。ダメそうなら、今度普通のスピンドルを買いに行きましょうね」


 はあい、と大人しくいい子の返事をしたルイス達の様子を横目に見ながら、私は空を飛ぶための魔法の刺繍を進める。気持ちのいい、秋の昼間だった。

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