第374話 クロスステッチの魔女、小さな《ドール》にご飯をあげる
キャロルが増えた状態で宿に戻って、私はその日は《ドール》達と眠ることにした。一緒に布団に入っているルイスと、枕元に丸くなっているキャロルとアワユキ。朝……というか昼近くになって目を覚ましてみると、かわいいが増えていて大変に眼福だった。
「おはようございます、マスター」
「あるじさま、おはようございます」
「おはよー、主様ー!」
三者三様の挨拶に、「おはよう」と返して、宿屋に食事を貰いに行く。部屋で食べると言って、シチューとパンの塊を貰ってきた。これを切りながら、《ドール》達にパンを渡す。シチューの深皿を四人で共有して、不思議そうな顔をしているキャロルに「食べ方がわからないの?」と聞くと、頷かれた。
「マスターがパンを切ってくださったから、シチューをつけて食べるんですよ。おいしいですよ」
「お砂糖菓子もあげないとだけど、《ドール》はそれ以外も食べられないわけじゃないわ。心を充実させることは、魔力の高まりと同じなの。それは魔女だけではなくて、《ドール》だってあって損がないわ。だから私は、自分の《ドール》に砂糖菓子以外のものも食べさせているわ」
キャロルの金髪を撫でながらそう言うと、納得した顔でパンに手を伸ばした。小さな体にはちょっとパンが大きすぎたようで、私は半分に切ってあげる。なんだか少し傷ついたような目を一瞬見せたキャロルに慌てて、「もう半分も食べていいけど、手が小さいからちょっとずつ食べてね。落としちゃったら、せっかくの服が汚れて悲しい思いをしちゃうわ」と補足した。
「わかりました、あるじさま」
こくりと頷いて、キャロルがシチューを乗せたパンを口に入れた。その目が輝いて、もう一口、もう一口。あっという間にキャロルの口に対しては少し大きめのパンと、その上に乗ったトロトロの具材が消えていった。ここのシチューはおいしくて、たまたま見つけたけれどいい宿だと思う。
「あるじさま、あるじさま! これ、おいしいです!」
「よかったですね、キャロル」
「おいしいよねー!」
私たちがシチューを気に入っているからか、宿の人たちはちょっと多めに盛ってくれる。その分、私も宿賃に加えてちょっとした魔法をあげていた。この辺りには魔女はソフィ様しか住んでいないから、魔女組合も遠いようなのだ。シチューはおいしいけれど、魔女としての仕事はそんなにたくさんはなさそうだった。自分たちで生きていく力が、このあたりの人たちにはある。
「うーん、この後どうしようかしら」
お師匠様にキャロルを見せてから考えよう、そう思いながらパンをもう一切れ食べた。
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