第373話 クロスステッチの魔女、お洋服をもらう

 あれやこれやと着せ替え会は盛り上がり、夜更けまでかかった。


「これと、これが特に似合うわね……片方はスカートで、キャロルには悪いと思うけれど……」


 何せ、中性的ということは男の服も女の服も似合うのだ。白いシャツと黒いズボンの男の服と迷っている、もう片方は女の服だった。フリルのついたエプロンドレスに、うさぎの耳を模ったヘッドドレスもついている。


「私も、中性型の《ドール》のいい参考になったわ……だから、両方あげちゃう!」


「さすがにもらいすぎですよ!?」



いいの、いいの、とソフィ様は笑う。


「小さい《ドール》の核は、狙って作れるものではありません。だからずっと、こうしてここに残り続けていたんです。それが核とマスターを得て旅立てるのであれば、人形師として喜ばしいことですから」


 そう口を挟んだのは、エステラだった。お金を払おうとしても財布をしまわされたので、本当にくれるつもりらしい。


「せめて、せめて何かさせてください、申し訳ないです……」


「それなら、あなたの《名刺》をいただけるかしら。それから、連絡を取れるように水晶も」


 こんな小さなくるみボタンひとつでは対価に絶対ならないと思うのだけれど、それが要望だと言われたら渡すしかなかった。自分で刺繍をした、くるみボタンを差し出す。水晶の波も交換した。


「まだ、これくらいしか作れていないんですが……」


「それでいいのよ、名刺に大掛かりな魔法をもらっても困ってしまうもの」


「そういうものですか……?」


 私にそう言って、あっという間にソフィ様は二着の服を包んでしまった。あれよあれよと手渡されて、もう断れなくされてしまっている。


「ええと、その、本当にありがとうございました。何から何まで……キャロルのこと、大事にしますから」


「こちらこそ。お母様に繋いでくれた上に、長らく見つからなかった《ドール》に核を入れてくれたんだもの。どちらも、私にはとても嬉しいことよ。その子のことで何かあったら――いえ、あなたならご自分のお母様に聞かれるのが早いかもしれないわね。時々、キャロルの話させてくれるともっと嬉しいわ」


「あの、ありがとうございました。ボクに体をくれて」


「僕からも、お礼を言わせてください。キャロルに体をくれて、僕も安心しました」


「お友達増えて、たのしー! ありがとー!」


 もう一度お礼を言って、私はソフィ様の家を辞することにした。もう夜も遅いので、魔法で灯を灯して歩いて帰る。箒に乗るのがうまくなったとはいえ、まだ少し飛んで帰るのは怖かった。

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