第372話 クロスステッチの魔女、小さな《ドール》を歓迎する

 私が小さな《ドール》をしげしげと眺めていると、キャロルは私に目線を合わせてにこりと微笑んだ。中性的な体のせいか、男の子にも女の子に見える。


「おはようございます、あるじさま。素敵なお名前を、ありがとうございます」


「キャロル、小さい体になってしまったけれど、大丈夫そう?」


「ええ!」


 すぐにバネをつけたように勢いよく起き上がり、キャロルは素っ裸のままくるくると回り始めた。自分の体が手に入り、自由に動くことが嬉しいのだろう。手指を動かし、足を曲げ伸ばしして、少ししてから自分がほとんど裸だと気づいて大人しくなった。


「ごめんなさいね、キャロル。服を選ぶ前に、そのー……早くあなたと話したくて」


「よろしくお願いします、もう一人の僕。いいえ、キャロル」


「ええ、ええ! よろしく、もう一人のボク」


 少しだけ妙なことにならないかと危惧していた、ルイスとキャロルの顔合わせも問題なく済んだ。かわいらしい顔でにこにこと微笑むキャロルに、ソフィ様は白く柔らかいサテンの服を着せる。


「流石は、お母様の作った体ね。目覚めてすぐにこんなに動き回れるとは、思っていなかったわ」


「小さいキャロルの服は、自分で作った方が早かったりするかしら」


「いくつかあるし、型紙の写しもあげられるわ。持ってくるわね」


 ソフィ様はそう言って、ガラスの鈴を鳴らす。涼しげないい音がして、小さな箱が飛んできた。


「前に大きい箱を魔法で飛ばしたら、危うくガラス細工を壊しかけてね。それ以来、大きくて重いものは飛ばさないようにしているのよ」


「割れ物を魔法とするからこそ、なんですねぇ。私はまだ使えませんが、お師匠様は気にしないで沢山飛ばしてますよ」


 そんな話をしていると、二人で座ってる机まで飛んできた箱がひとりでに開いた。中にはかわいらしい服が沢山詰まっている。ズボンは少なくて、大半はスカートの服だった。


「キャロルはどうしたい?」


 正直、中性的に作られた顔にはスカートもズボンも似合いそうだった。どちらも着せたくなる。それからは、正しく着せ替え人形遊びが始まった。


「やっぱりしっかり核が入って動き出すと、かわいいものね。その体に何も入ってない頃より、とてもよく似合っているわ」


「ありがとうございます。ボクも自由に動けることができて、とても嬉しいです」


 本当に、ズボンもスカートもよく似合った。本人がスカートも履いてみたいと言い出した時は少し驚いたけれど、楽しんでいるならいいのかなと思うようにして。結局決まらないまま、夜のお茶もいただいてしまった。

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