第375話 クロスステッチの魔女、お師匠様に報告する
私はご飯を食べ終えて一息ついてから、キャロルをお師匠様に見せることにした。水晶を出して皆を呼び寄せ、お師匠様の水晶へ波を飛ばす。相変わらず、震わせてもすぐにはお出にならないけれど、しばらく続けていると効果があった。
『おや……クロスステッチの魔女かい?』
「はい、お師匠様。エヴァ様とはお会いになれました?」
『懐かしい話が沢山できたよ』
水晶に浮かび上がる小さなお師匠様の像は、小さくてもわかりやすく笑顔を浮かべていた。そして、キャロルに目を止めたのがわかる。
『その子が、エヴァの体の……』
「ええ。名前は、キャロルって言います」
「あるじさまの《ドール》になりました、キャロルといいます。よろしくお願いします」
キャロルがぺこりと一礼すると、お師匠様は『あの体がとうとう、中身をねぇ』と感慨深そうな顔をされた。
『どこまで小さく作れるかを試してた結果、これに合う核は早々できないような大きさになってしまった。だから中身が入ることはないかも――なんて、エヴァはぼやいていけどね。やっぱり《ドール》は、中身が入っていてこそさ。来年中くらいには、エヴァに見せてやっておくれ。今は旦那のところに行くのに、あれこれやってるみたいだからね』
わかりました、と言って水晶をキャロルに近づけると、顔がよく見えてるらしいとわかったキャロルがますます笑みを深めた。新しい体の影響なのか、単に動けるようになって気晴らしになっているのか、思っていたよりは明るい子だと思う。とはいえこの子にはルイスが持ってない「前の魔女の持ち物だった頃の記憶」が恐らくそれなりにあるだろうから、気をつけてあげないと。今は体が自由に動くだけで嬉しいけれど、色の濃い影は消えてはいないのだから。
「報告もなんですけど、これからどうしようか考えてたところで……」
『帰ってくるんじゃないよ。もう魔女になったんだから』
一度そちらに帰ったらダメですか、と聞こうとしたのを見抜かれて、即座に言われてしまった。
「あるじさま、何か悪いことしたんです……?」
「いいえ。冬に家に籠るのはやめて、外で一冬過ごしてこいって言われてしまっているの。どちらかと言うと、課題……かな? キャロルが心配することじゃないからね」
そう言って髪を撫でてやると、ルイスやアワユキも体をくっつけてきた。しばらく手分けして撫でてやっていると、お師匠様の忍び笑いが聞こえてくる。
『その様子なら、新顔が増えてもうまくやれそうだね』
「ええ、みんな私のかわいい子ですもの!」
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