第370話 クロスステッチの魔女、人形師の家を訪れる

 次の日のこと。私はソフィ様に迎えられて、また彼女の家を訪れた。今度は、彼女の家に招き入れられて中をじっくり見ることになる。前は玄関で話してたし、慌てていたので、彼女が住んでいる家の中を見るのはほとんど初めてだった。


「ごめんなさいね、少し散らかってるのだけれど」


「散らかってませんよ……?」


 しっかりと整理整頓された家の中で、まず目についたのは私の家より大きな窓だった。外の景色が見えるので開いているのかと思ったけれど、風は吹き込んできていない。とても綺麗な、大きなガラスが窓に嵌っているのだ。


「すごい……」


 窓にガラスを嵌めている場所は、そう多くない。そしてそういうところも、窓は小さいことがほとんどだ。透明ではなく、色がついていることもあるらしい。中には色ガラスで絵を描いている場所もあるらしいけれど、生憎と私はあまり見たことがなかった。ターリア様のお城では、私が見た小さな窓全部にガラスが嵌ってくらいだろうか。多分、もっと権威の求められるような部屋には、色ガラスで絵が描いてあるのだろうと思った。

 部屋の中には私にはわからない道具とわかる植物が丁寧に並べられ、沢山の《ドール》の手足や胴体、作りかけの頭、粘土の塊もあった。それらを部屋に入ってすぐに見回してしまっていると、「どうぞお座りになって」と、高い声の《ドール》に声をかけられる。


「あたくしはエヴァの《ドール》で、今はソフィの《ドール》をしているの。エステラと言うわ、よろしくね」


「ええ、よろしく。私はクロスステッチの四等級魔女。この子はルイス、こっちはアワユキ、それからこの子はこれから名前がつくわ」


 長くまっすぐな水色の髪に、中に星が散った濃い青の瞳の《ドール》だった。少女型の彼女は柔らかいエプロンドレスを着て、私達にお茶を出してくれた。


「この核が、あの寝坊助にこれから入るって言う核? 確かに小さいわね」


「元々ある核を削るようなことは、《ドール》の心に大きな負担をかけるというのは人形師の間で知られたことなの。いくら素敵な核と素敵な体があるからって、体に合わせて核を歪めるのは《ドール》を壊しかねない行いだわ。だから、この体も元々それに合う小さな核しか受け入れられなかった」


 鉢植えの植え替えとは少し違うのよ、と言って、ソフィ様はお茶菓子を勧めてきた。ありがたくスコーンを食べていると、彼女は今度は大きな箱を二つ持ってくる。


「食べながらでいいから、色を見ておいて頂戴。魔法でこの子に合う大きさにすることはできるから、そこは安心してね」


 ひとつ目の箱の中身は色とりどりの髪の毛用の糸に、そこから作られたカツラ。もう一つの箱には、ガラスでできた沢山の色合いの目があった。どんなお茶菓子よりも魔女には楽しいものを見ながら、和やかに時間は過ぎていった。

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