18章 クロスステッチの魔女と小さくなった《ドール》

第369話 クロスステッチの魔女、色々と相談する

 ソフィ様はいくつか、髪と目のストックが家にあると教えてくれた。


「片付けも掃除もしないとだから、明日、来てくれるかしら。というか、迎えに行くわ。どう?」


「是非!」


「それなら、とっておきのお茶も用意しなくっちゃ。じゃあ、また明日」


 彼女はそう言って、またするりと窓から出て箒で帰っていった。本当に器用な人だ。


「マスター、近々もう一人の僕が目を覚ませるかもしれないんですね」


「そうね……どうしよう、名前が決まってないわ」


 私はふと思いついて、魔法の本をパラパラとめくり始めた。確か、こういう時によさそうな魔法があったはずだ。しばらくページをめくっていると、該当する魔法が見つかった。《伝心》の魔法……《動物会話・四つ足》からさらに発展させた、口のないモノと心を通わせるための魔法だ。魔法の説明書きにも『安全に核と意思疎通ができます』と書いてある。やっぱり、あの時に核に直接触れるようなことをしたのはかなりの無茶だったらしい。


「難しそうな刺繍ですねぇ」


「材料はあるから、あとは私が頑張るだけよ」


 幸い、核と少し話すだけなら対して大きさが必要なかった。見つけてすぐに刺し始め、夜までかけて作り上げる。終わってみると、ルイスが宿屋の夕食を部屋まで持ってきてくれていた。


「あら、ありがとうルイス。気が利くわね」


「マスターは、僕達のために頑張ってくださっていますから」


 そう言ったルイスの頭を撫でてやって、私は出来上がった刺繍の中央に核を入れた瓶を置く。瓶から線と円が伸びるような構造になったところで、私はその刺繍に魔力を通した。


「 私の声が、聴こえるかしら? あなたに呼びかけるこの声が。私の言葉が、わかるかしら」


『……はい、あなたの声が、聴こえます』


 なんとなく予想していたよりははっきりと、言葉として意思が聞こえてきた。


「私ね、あなたの体を別に用意しようと思っているの。髪と目の色は、どうしたい? やっぱり、同じ銀色の髪と赤い目がいい? 他の色にしてあげることもできるわよ」


 私のその言葉に、少し考えているような波動を感じる。その間も、敷いた刺繍は少しずつ布からほつれていた。この魔法は完全に消耗品で、だんだん壊れて行くと本にあったことを思い出した。


『違う、違う色になりたい、です。新しい、自分になりたいから。違う服も、着てみたい。ルイスじゃない、名前も欲しいです。すみません、ワガママばかり』


「わかった、なら沢山考えてあげる。目を覚ませる時を、楽しみにしていてね」


 それを伝えたところで、刺繍が金色の炎を吹き上げてほつれきってしまった。《伝心》の魔法が少しでも成功したことに手応えを覚えつつ、その日は何がいいかを考えてるうちに眠ってしまった。

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