第361話 クロスステッチの魔女、相談する

「アルミラからの手紙には、その腰から下げてる核がどうにも厄介な訳ありだと書いてある。今は魔女をやめてしまったから、どこまで力になれるかわからないけど……見せてご覧」


「はい、よろしくお願いします」


 私は雰囲気を変え、老いても魔女らしくなった彼女へ《もう一人》の核を渡し、簡単に話した。虹核オパールのことは話せないから、中古で買ったルイスのことと、その《名前消し》が不十分だったらしく心が少しだけ残っていたことを話す。


「……ルイスとひとつにしてしまうのが正しいんでしょうけど、小さな突起ができていて、お師匠様がそれなら、と株分けしてくれたんです。ルイスはその後、悪影響もなく元気にしています」


「それはよかった。ルイス、と言ったね。お前は自分のマスターがこんなことして、自分の一部を分け与えて彼女がもう一人作ろうとしてることはどう思ってるの?」


 ルイスは少し首を傾げ、不思議そうにしてからなんでもないように言った。


「とても優しく、お人よしで、慈悲深いマスターだと思っています。普通、正式な人形師の店ではなく雑貨屋のようなところで、魔法糸も伸びきってひび割れて片目もなくなってるような《ドール》を買う物好きなんていませんからね。僕の一部はその核に分かれましたが、あの店で随分と長いこと、乱雑に転がされていたことは朧げに覚えているんです。そんな僕を抱き上げてくれた人はいても、そのまま買い上げてこんなに良くしてくれる魔女がいるだなんて、きっとそちらの僕も思ってなかったと思います」


「うん、人形師を数百年やってたけど、そんなところで《ドール》買う魔女は確かに中々いないねぇ。最初の子なら尚更! 《名前消し》も不十分となると、妙な夢を見たりもしたろう。もう大丈夫だから、安心おし」


 はあい、とルイスはどこか嬉しそうに笑って言った。それからエヴァは真面目な顔でルイスと核を色々と眺めたりした後、「もう魔女の感覚は朧げになってしまったけれどね」と前置きをしてから言った。


「確かに、普通の人形師が普通に売ってる少年型や少女型を満たすには、核が少し小さいし……これ以上、このままの状態で大きくなることもないだろうね。手のひら大の体は着せる服にも工夫がいるし、何より普通の核では大きすぎて入らない。特殊な体だから作る魔女も少ないし、高くなりがちだ。それでも、あんたはそれが欲しいのかい?」


 思っていたよりも、大変なことだとは思った。それでも、私は頷いた。

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