第358話 クロスステッチの魔女、一手踏み込む
エヴァのお茶は普通の紅茶に、何か香辛料を少し混ぜた独特の味がした。
「それにしても、魔女様は何故人を探されているので?」
私はその言葉に、腰からさげていた《もう一人》の瓶に軽く触れて答える。
「人形師の魔女に、この子のための体を作ってもらおうとしていたの。そしたら、私のお師匠様が、ガラス細工の魔女エヴァ様の名前を出されてね。ハルシカ村に住んでると聞いていたから来てみたのだけれど、お師匠様の時間感覚を少し忘れていたわ。とんでもない大昔の可能性があるって。だからきっと、彼女はどこかに行ってしまったのね」
私が「次のアテを探さないと」と呟くと、エヴァは「少なくとも他にエヴァというのがいた記憶は、ないですねぇ」と追い打ちをかけてきた。魔法で探すこともできずに足取りを見失った魔女を、どう探したものか。
「困ったわねぇ……人形師に知り合いがいるわけでもないから、ますますどうしたものか。それに、お師匠様からお手紙も預かっちゃったし」
「おや、おつかいで」
そうなのよ、と言っている私のカップが空になったから、エヴァはおかわりを注いでくれた。
「古い友達に、手紙を届けてくれって。それからこの子に体を作ってもらえるか、頼んでみるように、って」
「魔女は不思議なことをするものですねぇ」
「この核を人形の体に籠めると、僕のように動き出すんです! マスターは、この核に素敵な体を用意するって言ってて、とても優しいんですよ」
ルイスは小さな子供用のカップに淹れてもらったお茶を味わいつつ、そう説明を補足してくれた。そう、そうかい、とどこか意味ありげにエヴァが頷く。
「この核は色々あって、普通に買うのではなく私が素敵な体を用意してあげたいんです。だから、そういうことに長けた人形師の魔女を探していました。少し滞在したら、また別のアテがないか探すのに旅立つつもりです」
「魔法で、その魔女を探せばいいのに」
「それができなかったんです。探そうとしても、ガラス細工の魔女エヴァの名前では魔法が働いてくれなくて……ハルシカ村のことは、魔法で探してきたのだけれど」
見つからない、とまたエヴァが復唱するように呟いた。これはもしかしたら、踏み込むべき時かもしれない。あの可能性があるなら、手札を切ってぐらつかせる時だ。
「私のお師匠様は、リボン刺繍の魔女アルミラと言うの」
手応えが、あった。エヴァは少し手で顔を覆ってから、意を決したように私達に言う。
「……私が、ガラス細工の魔女エヴァよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます