第356話 クロスステッチの魔女、人探しをする

「やあ、魔女様だ!」


「こんな田舎に魔女様が立ち寄るだなんて、ようこそ!」


 まだ冬備えを本格的に始める時期ではなかったからか、ハルシカ村の人達は、空から箒に乗って降りてきた私のことを歓迎してくれた。村の広場に着陸した私達のことを囲んで、何の用だとか泊まるのかとか、いくつもの質問が飛び交っていく。


「この村には、魔女はいないの?」


「ええ。もしかして、誰か探しておられたので?」


 私の言葉にそう言ったのは、かなり歳を取った様子の老人だった。杖をつきながら歩いてきていたとはいえ、頭と言葉ははっきりしているようだ。


「ガラス細工の魔女エヴァ、という人を探しているの。いないのなら、ゆっくり探すわ」


「この村に住んでくださってる魔女はおりません、少し泊まっていただけましたらあたしらとしては嬉しいです」


 今度は乳飲み子を抱えた女性にそう言われ、「魔女様だ」「うちの姉さんとそんなに変わらないじゃないか」なんて言われて、やっぱり魔女は少なくともこの村にいないと確信した。まず今夜はこの村に泊めてもらうことにして、どうするかはこれから考えなくてはならない。

 そんなふうに考えていると、不意に誰かの声がした。


「魔女じゃねえが、エヴァって名前の婆さんなら村にいるよ」


「いたっけ……?」


「ほら、村外れに住んでる魔女婆さ! 羊飼いレノクのかみさんの!」


「あ、ああー! そういや彼女、エヴァって名前だったっけ!」


 村人達の間でぽんぽんと飛び交う会話によると、どうやらこの村には魔女はいないがエヴァという名前の老婆はいるようだ。


「明日、会ってみたいのだけれどいいかしら」


「変わり者の婆さんですが、普通に尋ねれば大丈夫ですかと。子供らの相手もよくしてくれるんです」


「今夜は村長の家でお休みください」


 先ほどの老人が村長だったらしく、私はありがたく一晩の宿を借りることとした。その分、火種の魔法などを渡すことでお夕飯までご馳走になってしまうこととなった。


「魔女様、お人形様とぬいぐるみ様も。うちの田舎料理ですが、幸いにも旅人には好評いただいております」


「わぁ……!」


 この辺りはいい草が生えるから牧畜が盛んだということで、おいしいチーズをたっぷりパンに乗せてシチューといただいた。ヤギのチーズなのも、私には馴染みのある味でおいしい。


「エヴァが魔女様のお役に立つかはわかりませんが、彼女の子供達は皆、町に稼ぎに行ったり嫁に行ってしまいましたからなぁ。彼らも年明けの頃には戻るとはいえ、普段は寂しい一人住まい。魔女様が訪ねていけば、喜びますでしょう」


 村長とその妻によると、若い頃のエヴァは大層な美人だったらしい。そんな話を聞きながら、その夜は更けて行った。

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