第342話 クロスステッチの魔女、小さな核と大師匠様の話をする
ルイスの核がもう一度彼の小さな体に収まるまで、数日かかった。数日で済んだのは、彼の核がしっかり大きかったからだと思う。多少彼から一部が失われたとしても、それがルイスという心そのものの存続には関わらない。それだけの思い出と、心の強さがあった。
「ルイスの核を体に戻しておやり。もうひとりの方は……核として体に入れられるほどのものか、もう少し成長を見守ってから体を用立てるよ。今のままでは不安定で、体を手に入れても無駄になる可能性があるからね」
「わかりました、お師匠様」
ルイスの核が元の形を取り戻した時、お師匠様は私にそう言った。お師匠様自身は《ドール》の修復が専門であって、作られはしない。けれど、核や体の作り方についても詳しかった。
「お師匠様の専門は修復ですよね。でもどうして、作る方にもこんなにお詳しいんですか?」
「……直すためには、どう作られてるからを知るのが近道なんだよ。あたしの師匠は、人形師を名乗るほどじゃあなかったけど作るのが好きだったしね」
嘘が混ざってるな、と思った。それだけじゃない、って。お師匠様のお師匠様――大師匠様のことは、そういえばあまり聞いたことがなかった。
「お師匠様、大師匠様ってどこにいらっしゃるんですか? 私も会えます?」
「……今はもう、月の花園にいるよ」
それは会えなくて仕方のない話だった。私は「そうですか、それは仕方ありません」とだけ言って、核を見守ることにする。小さな小さな核は、まだ白い布に包まれていてほとんど見えていなかった。うまくいけば、ここからルイスのような核へと成長する。うまくいかなければ……この芽生えた心は、消えてしまう。
(どうか、この心が無事に育ってくれますように)
人間から心のカケラになるものをもらい、そこから作り上げる核。それがうまくいかないこともある、という話を思い出していた。カケラから上手に心へと、核へと膨らんでいくことができないでいると、液体の中で溶けてしまう。核になる感情と、思い出をひとかけら。それだけのものがあの小さな核にあると思いたかったし、《ドール》になれるだけ育てたかった。ひとつの核にふたつの心は、お互いを蝕むだけだから。
「お師匠様、この子がどうなるかしばらく暮らして見守ってもいいですか? 本当は連れて帰りたいところですけど、何かあっても多分何もできないので……」
「炊事洗濯掃除にあたしの手伝い。あと、自分の家も疎かにしないこと」
「わかりました!」
私は頭を下げて、まずはルイスを起こしてほったらかしてた自分の家の掃除から始めることにした。
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