第327話 クロスステッチの魔女、時を過ごす
ルイスは――ルイスの核は、今も目まぐるしく煌めきながら魔力を吸い取って夢を見ていた。お師匠様曰く、滅多に見たことがなく、夢を見る状態がすぐに終わらないのも珍しいのだという。
「こんな状態なのを放ってはおけないね……あんた達、しばらくうちにいな。クロスステッチの魔女は前みたいに、うちのことを頼んだよ」
「わかりました、お師匠様」
炊事洗濯掃除に雑用。普段使いの糸を紡いで布を織るところまで働きながら、暇があればルイスの虹色の核――お師匠様が私の使ってた部屋に置いてくれていて、他のお客が来たとしても見えないようにしてくれている――の様子を見つめていた。アワユキはぬいぐるみの体だから家事はあまりできなかったけれど、代わりに雪の力で程よく色々なものを冷やしてくれている。外に出しては冷たくなり過ぎてしまうようなものに対して、お師匠様はアワユキの力を借りるという回答を示された。私には思いつかなかったことだし、なんだかんだと楽しそうに雪を出している。これからは、私も頼んでみよう。
「ルイス、早く落ち着けばいいんだけど……」
「今この状態で核を組み込み直すのは無理だよ、また魔力を吸い上げ過ぎて体を傷めてしまうから。後は核を入れられるところまで戻す分には構わないから、やってみなさい」
ある日の夜、お師匠様は私にそう言った。私はルイスの体を丁寧に拭いて、ひとつひとつを綺麗に組み立てる。寝間着を着せて、ベッドに体を寝かせた。どちらも、一度家に帰って持ち出してきたものだ。閉じられた瞼の奥の、色違いの瞳まで、綺麗に洗って魔力で満ちている。本当に後は核さえ戻せれば、いつもよりも元気になりそうでさえあるほどだった。
「ルイスが眠ってる間に、冬、終わっちゃったわよ」
窓の向こうから、暖かくて花の香りをまとった風が緩やかに吹いてくる。チェリーの花びらが一枚、部屋に吹き込んできたから慌ててルイスの核を浸してある瓶の蓋を閉めようとした。いつもより近づいた時、かすかな音が耳に聞こえてくる。いいえ、これは音ではないのかもしれない。小さな、小さな音。泡の弾ける音に似ていて、耳をくすぐる。
『……ねぇ……ぼく――』
「ルイス? ルイスなの?」
薬液を時折変えて魔力をさらに補填してやりながら、魔女として生きる永遠の一部をルイスに使う。それ自体は、構わない。何せ時間は、いくらでもあるのだ。なんならこの間に三等級魔女試験の練習をしたし、字だって少しは上手くなった。
けれど、やっぱり私を慕ってくれるあの子がいないのは、寂しくて。私は、光る核へと指先を伸ばした。
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