第320話 クロスステッチの魔女、魔法憑きに挑む
「準備完了! 相手がどんな魔法を持っているかわからないけれど、壊れない程度に行くよ!」
「はい、わかりましたマスター」
「アワユキも雪出したりして応援するー!」
必要なものを確認して気合を入れ、待ち合わせ場所に戻る。するとウサギを狩っていた『流れ星の尾』が、鼻面を赤くして食事をしているところだった。
『あ、魔女様! ごめんなさい、お腹すいちゃって』
「いいわよ、食べ終わったら案内してもらうから」
もう大半は食べ終えていたようで、少し待てば彼から『いこー!』と言ってくれた。人懐っこく振られる尻尾を追いかけるようにして、ルイスとアワユキの顔をカバンから出させる形でしまいこんで追いかける。魔女になっても魔法を使わなければ、サクサクと雪を踏む音がほとんど私の分だけしていた。オオカミは雪の上でも狩りをするから、あまり音は立てない。もっと年長のオオカミであれば、さらに静かに歩けるはずだろう。襲われると怖い存在に頼られ、連れ立って歩くのはなんだか変な気分だった。本当ならば、魔女になってすぐに慣れるべきことだったのかもしれないけれど。
『ほら、魔女様、あそこ』
ここがどこなのか。木も草原も岩も、すべてが白く染まって違いがとろけてわからない。一人で歩いていれば雪の中に隠れた兎穴に足を取られたり、岩にぶつかったりして、方向を見失うだろう。帰りはそのための魔法があるからいいけれど、そういうのがなければ帰り道に苦労したかもしれない。あんまり白しかないと気が狂うほどの変化がないのに、白の下には豊かな自然が春を夢見て眠っている。そんなことを考えながらしばらく真っ白な景色の中を歩いていると、しばらくして『流れ星の尾』が鼻面でつと一角を指し示した。
「あれは確かに、魔法憑きの魔物ね……」
魔核を砕いて倒せばいい、という倒し方そのものは同じはずだ。真っ白い毛皮に、光の反射が青白い額の魔核の位置を浮かび上がらせてくる。ただの白ではなく、オパールのように少しだけ虹色がある毛皮だった。あの美しい毛皮が、魔法の憑いているところだろう。あれを焼くなりなんなりして永遠に傷をつけてしまえば、天然の美しさでできた毛皮の魔法は消えてただの魔兎になるだろう。けれど、魔女としてそんなことは看過できなかった。なるべく、毛皮の魔法は壊したくない。毛皮はもちろんあれも好みの石の形をしているから、倒すために砕いた後の欠片をもらってしまってもいいかもしれない、なんて思った。ルイスとアワユキをカバンから出して目当てを示してやると、二人はこくんと頷いた。
「それじゃあ……行くよ!」
最初に魔法を一時的に封じておきたかったから、私が魔法で軽く固めていた泥をぶつける。それが、最初だった。
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