第319話 クロスステッチの魔女、戦う準備をする

 私は一度『流れ星の尾』と名乗ったオオカミと別れて、家に戻ることにした。魔法憑きの魔物と戦うことは初めてだけれど、私に頼まれたことなのだ。喜んで、協力させてもらうことにした。


「マスター、僕たちにできることはありますか?」


 そう言ってくれるルイスとアワユキに、「まずはお姉様が用意してくれた剣を持ってきて」とお願いした。ついつい戴いてからも勿体無くて仕舞い込んでいた、金属製の銀色の刃を用意させる。その間、私は自分自身が戦うための備えを用意していた。

 《発火》や《風刃》、《氷結》といった、攻撃のための魔法の刺繍。それに、《身代わり》や《身の守り》のような、防御のための刺繍を多めに。それから投石紐に、すべすべと滑らかでよく飛びそうな石をいくつも。


「本当は、魔女なら魔法だけで戦うのが正しいんだろうけど……世の中何があるかわからないし、私の魔法だけではうまくできないことも十分ありそうだからね」


 魔女の魔法は、お裁縫だ。戦闘とかでバタバタしている状態の時に呑気に刺繍をしているわけにはいかないし、そういう時に無理に作っても目当てと違う魔法ができて大変なことになることもありえる。だから、事前にたくさん作っておくのだ。戦いの最中に作れない分、たまたま練習も兼ねてたくさん用意していた魔法をすべて持っていくことにした。


「ルイス、アワユキ、二人につけて欲しい魔法があるからこっちにいらっしゃいな」


 はーい、とおとなしく返事をして近寄ってきた二人に、魔法の腰紐を巻いた。紐と言っても、薄く短く長い紐に《身代わり》の魔法を刺しているから、暇と言うには少し違うかもしれないけれど。ルイスにはズボンに、アワユキには腕の邪魔にならない胴体に、それぞれ巻いて魔力を通した。


「マスター、この魔法はなんですか?」


「《身代わり》の魔法よ。あなた達が傷を負うと、まずはこの魔法が壊れるようになっているの。だからって、ほいほい怪我をしにいくような真似はダメだけどね」


「わかりました」


「はーい」


 素直に返事をした二人を撫でてやりながら、私はもう一度自分の持っていくものを確認した。質を問わずたくさん用意した、攻撃の魔法と防御の魔法。投石の用意と、石。怪我の時に使う包帯は、魔法のないものしか用意できなかった。


「魔法憑きの魔兎……倒せたら、毛皮をマスターの魔法に役立てられそうですね」


「確かにそうかもしれないわね」


 そう言って、私は気合を入れた様子のルイスの頭を撫でる。やってみないうちから毛皮の使い道を考えることを諌めないといけないけど、できなかった。

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