第314話 クロスステッチの魔女、動物と話す魔法を刺す
見ていて心配になるから、ちゃんと食べて寝るように、とルイスに言われてしまったので。私が獣と話すための魔法の刺繍を作るのには、それなりの日数を必要とした。氷を作るための魔法と違って、今回は真ん中にある基礎の部分もまったく使ったことがない模様になる。だから、苦戦した。
「あーっ! 一目ずれてる……ええと、ここからここまで解いて作り直さないと……こっちの色糸も解かないとだね……確認しながら刺してたはずなのにぃ」
「マスター、もう多分寝た方がいいですよ。この間はそう言って解いたら、次の日には解かない方が正しかったって半泣きで刺し直してたじゃないですか」
「う、あったねそんなこと……今日のこれは本当に間違いだと思うけど、自信なくなってきちゃったじゃない……」
魔銀の針は一本しか持ってないから、何色もの色糸を使っている時は布の後ろに色とりどりの糸が垂れている。刺している色糸が巻き込んでしまわないようにもしないといけなくて、クロスステッチは刺繍の魔女の基礎らしいけれど奥が深い。他の刺繍はお許しが出なかったし、《クロスステッチの魔女》を名乗る以上、クロスステッチを極めたかった。だから、本に色々書いていても、結局こうしてクロスステッチをしている。基礎だから、大体の本はクロスステッチと同じ要領で魔法を記載してくれているし。
「主様、今日は寝た方がいいんじゃないー? アワユキのこと、もふもふーってする?」
「……する」
ルイスもそっと寄ってきたので、二人とも抱えて今日は寝ることにした。お師匠様やお姉様なら、そもそもこんな魔法ひとつ作るのに数日かかったりはしないのだろう、とか考えると、少し気が重く感じることはあるけれど。まだ百年も生きていないし、魔女の修行をし始めてから刺繍を始めたようなものだから、と自分に言ったりもしていた。
「マスター! 今日は僕がアワユキと朝ご飯作りますね」
「あら! 魔法でパンは出しておくから、お願いしようかしら」
そう提案されたので任せてみたら、私が前、メルチに料理を教えていた時の朝ご飯が出てきた。魔法で出したパンにバターを添えて、とろとろに温めておいたチーズと、庭で採れた野菜の葉を洗ったもの。それに、元の素材同士に戻りかけていたけれど、油と調味料を混ぜたソースまで作ってくれていた。アワユキの毛並みに汚れがついてないかとドキドキもしたけれど、そこはルイスがちゃんと役割分担をしてくれていたらしい。アワユキは丸洗いするわけにもいかないので、ちゃんとしてくれていて助かった。
「ありがとうね、二人とも」
「!! いえ、僕こそありがとうございますマスター!」
「わーい、褒められた!」
私がお礼を言うと、こちらが少し恥ずかしくなるまで喜んでくれたのが嬉しかった。
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