第306話 クロスステッチの魔女、目標を立てる
昔の夢を見たような気がする、眠りの後で。目を覚まして冬の朝の風を入れてみると、その朝はやけにすっきりとして感じられた。
「んー……せっかく修行するなら、何か目標を立てないとね」
大きく伸びをして、私は朝の柔らかい光を受け取る。自主修行……要するにおさらいをするとは決めていたけれど、ただ闇雲に魔法を作るだけではきっとうまくいかない気がした。
「まずはこの冬の間に、習った魔法を丁寧に作っていくことから始めて……あっ、そうだわ!」
つい軽く手を打ち鳴らしながら、寝落ちの顔をしているルイスとアワユキに振り返った。
「ねえ、二人とも。私、四等級になれたことが嬉しくてそのままになっていたけれど……三等級魔女になるためのお勉強、ちゃんとしようと思うの」
「マスター、もっとすごい魔女になるんですか?」
「主様がんばれー?」
「うん、頑張ってみようかなって。百年以内には、取りたいところ」
見習いを脱して四等級魔女になるまで、なんだかんだと二十年もかかってしまったのだ。それより上の等級となれば、勉強も実技も多くなるのは目に見えている。お師匠様から受験のお許しが出るかも、また別の問題だ。自分の意思だけで受験できるのは二等級からで、四等級と三等級は師匠のお許しがいる。
「そこで百年って言えるところが、きっと、マスターが魔女になってきた点だと思います」
「そうかな? まあ、まだ私は人間の頃と合わせても五十にはなってないから……実感はないままで言ってるところは、あるんだけどね」
三等級になれば扱える素材も増えるから、ついつい摘んで保存してそのままになっているもののいくつかは使えるようになる。四等級が扱うには魔力が強くて扱えないものも、やっぱりあるのだ。二十年も修行していた四等級魔女なんて中々いないとはいえ、四等級でいるなら、四等級の範囲でしか魔法が使えない。
「マスター、三等級に受かったらとびっきりのお祝いをしないとですね」
「いつするのー? 今日?」
「気が早いわよ二人とも! 何をするかは受かったら考えることにしないと、先のことすぎてきっと忘れちゃうわ」
私がそう言って二人を嗜めると、二人は小さく「そっかぁ」とどこか残念そうに言った。けれど、時間がかかるのは目に見えている。
「三等級魔女になるのって、どんなことをするんですか?」
「四等級の勉強の時に少し言われたのは、四等級の頃より難しい読み書きと刺繍の腕、それから図案を読み解くとか、編み物や糸紡ぎのような私の一門には直接関係のないところも見るって」
思い立ったら善は急げ。幸運の精は前髪しかない。朝ごはんを食べたら、お師匠様に連絡することにしようと決めた。
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