第301話 クロスステッチの魔女、魔法の思い出話をする
「マスター、今お声がけしてもいいですか?」
「ええ。どうしたの?」
《砂糖菓子作り》の魔法を刺し終え、糸切り鋏で糸の始末をつけたところで、ルイスに声をかけられた。気づけば、明かり取りから射し込む光は橙色になっている。随分と、時間がかかってしまったようだ。
「あら、お昼食べたかしら? お腹すいた?」
「僕達はマスターのお砂糖菓子があるから大丈夫です。それより単純に、聞いてみたいことがあって」
ルイスは作業机で私の手元をじっと見ていたが、単純にふと疑問に思ったらしい。
「マスターが一番最初に使った魔法って、どんな魔法ですか?」
「なるほど。それならこの、《砂糖菓子作り》の魔法よ。これは普段出してるのより少し飾りの部分を多くして、砂糖菓子の形を変えるようにしてあるけど……単純に砂糖を出すだけなら、図案はとても簡単なものだから」
見習いを志願したら、全員が通る魔法だ。私も去年メルチに教えた、一番簡単な形が砂糖を作って固める。
「ここの部分が『砂糖を作る』魔法で、ここが『この形に固める』魔法ね。だからここを工夫すればいろんな形にできるのよ。でも、固める魔法を必ずつけないと、砂糖を作る魔法だけでは何故かうまくいかないのよね」
私はルイスとアワユキに説明してやりながら、少し魔力を込めて砂糖菓子を三つ作り、二人にも食べさせた。自分も食べる。丁寧には作っても糸や布の魔力が大してないから、普段の砂糖菓子より甘味は低い。けれど、普段より綺麗にまとまっていて、歯を立てれば普段よりも細かい粉になった。これから、お料理用にお砂糖を作るときはこの図案と丁寧さで作った魔法を使ってもいいかもしれない。
「わぁ、あっという間に消えました……!」
「アワユキは、いつものもっと甘い方がいいー」
「最初はメルチみたいに粉砂糖さえ上手に出せなくて、大変だったのよ。魔女に向いてるのかなって悩むこともあったし……やっぱり魔女になれないって、辞めた子も見てるしね」
「それでも、今のマスターは僕達にとって立派な魔女です」
「そうなのー! だって、アワユキや兄様と一緒にいられるし!」
自分が魔女としてやっていけるか悩んでいた、昔の私に聞かせてやりたかった。
「よしっ! 新年だし、かわいい二人にご馳走を拵えなくっちゃ! いいお肉出して焼いちゃうわよー!」
「「わーい!」」
伸びをして席を立った私の後ろを、二人がふわふわと台所までついてくる。私のかわいい《ドール》達に下拵えを手伝ってもらいながら、その日は新年らしいいいものが作れたのであった。
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