15章 クロスステッチの魔女と魔法修行

第300話 クロスステッチの魔女、自主修行する

「私、年越しの夜会に出て思ったのよ。魔法をもっと、上手になろうって」


「それはいいことですね、マスター」


 眠って起きると、新しい年。もう何十と繰り返して来たけれど、何も昨日と変わらない日にすることも心持ちひとつで特別な日にできるのも、やっぱり魔法の一種なのだろう。普段よりも寝るのが遅かった分、朝起きるのも遅かったし。


「今日でひとつ、歳も取ったしね。気合いを入れるにはいいかなって」


「主様、今日生まれたのー?」


「いつかよくわかんないのもあるし、人間だった頃は年が明けたらひとつ歳を取る習慣だったしね。魔女になってからは弟子入りした日、ともいうけど、やっぱり新年の日の方が歳を取った気がするのよ」


 そういえば、メルチは特にそういう様子はなかった。あの子は当時親から逃げて来てそれどころではなかったと思って、私も新年の祝いはそこまで大きくしなかったけれど……そもそも新年に歳を取らない子なのかもしれない。確か、そういう風習の場所もあると聞いたことがある。


「というわけで、魔法の修行をもっと真面目にやろうと思うの。二人にももしかしたら、手伝ってもらうかもしれないわね」


 新年のご馳走に普段よりふわふわのパンと、一番上手にできた干し肉を戻して作ったシチューを食べながら、私は二人にそう話した。魔法の修行といっても、お師匠様から離れた私には魔法作り、の方が近いとは思うけれど、大きなものを扱う時なんかは《ドール》の手も借りたいのだ。


「そしたら今度は、何を作るんですか?」


「うーん、ルイスの着てるジャケット……と言いたいところだけど、これを私が真似るのは難しそうだし、まずは無難に基本の魔法からかな」


 遅い朝ごはんの後、私は基本魔法と呼ばれる六つの刺繍をとびきり丁寧に仕上げることを始めた。火、地、風、水をそれぞれ、精霊のかけら程度のものを少し呼び出すための魔法の刺繍が四つ。それから、パンと砂糖菓子を作り出すための魔法の刺繍。糸が縒れていないか、変に捻れていないか、ひと刺しごとによくよく確かめて刺していく時間だ。普段であれば大きな捻れ以外はあまり気にしないで刺してしまうけれど、今回はそういったものをなるべく排除する。布と糸と図案があっていれば魔法は出来上がるけれど、丁寧さは魔法の力と時間に関わるのだとよく言われたっけ。


「マスター、これは何の魔法ですか?」


「魔力を通すと水が出てくるんだけど、この布がちょっと濡れるくらいかな。糸が持ってる魔力が弱いから」


 こういう時は質の悪い素材で作ると、ほどほどに弱くて練習にぴったりの魔法ができるのだ。

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