第292話 クロスステッチの魔女、異国文化に触れる

「可愛らしい若い魔女が、履き慣れない靴のように緊張していらっしゃる」


「わ、私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女といいます」


 くふふ、と笑みまじりに私へ話を向けられ、なんとか挨拶を返した。骨格や喉仏は男の人なのに、柔らかい印象や踵の高い靴で女の人のようにも段々見えてくる。不思議な人だった。


「この人は東の諸島国アキからエレンベルクに渡ってきて、長いことこっちで魔法使いをしている人だ。細工一門の魔法使い、靴作りの二等級魔法使いのユーノという」


「ユーノです、どうぞよろしく」


 少し首を傾けて挨拶をされると、さらりと銀色の髪が揺れる。踵もあってかなり頭が上にあるから、そちらを見るには見上げる姿勢になるしかなかった。改めて服の形を見てみると、やっぱり、キーラだった頃に出会った東の魔女……そう名乗っていた彼女の服に形が似ている。


「多分、アキの方のお人に会うのは二人目だと思うんです。その人と、服の形が似ているし。アキの方の服なんですか?」


「ええ、アキでは皆が着る衣装ですよ。女物ですが、この方が私には似合っているので」


 なるはど、この人はグレイシアお姉様と同類のようだ。自分が似合うのであれば、恐らくは服装の規定とかを軽やかに吹き飛ばす方なのだろう。異国にいる今、縛る人もないからと特に。


「そういえば靴作りって、職人さんなんですか?」


「まあ、ほとんど趣味ですね。アキの靴は単調でそこまで好きではなかったんですが、西のこういう靴は見るのも作るのも好きで。元々細工物の魔法使いでしたから、得手がひとつ増えたようなものです」


「へえー……」


 男の魔女、魔法使い、に対してはルイスも興味があるのか、じーっと見ていた。そういえば、ユーノ様は《ドール》を連れていない。


「ところで、これは大事なことなのですが……そのお会いしたアキの人というのは、男でしたか? 魔法は?」


「女の人で、刺繍の魔法を使っていました」


 少し、私の言葉にユーノ様は気落ちしたように見えた。探し人ではなかったのだろうか。


「アキ人の男で、長い紺色の髪と瞳。そして細工の魔法を使う魔法使いに会ったら、教えてくださいね」


 きっと、大事な人なのだろう。その言葉に頷くと、ユーノ様は「よろしくお願いします」ともう一度念押しされた。


「一緒にアキから渡ってきた師と呼べるお方なのですが、ふらっと姿を消してそれっきりでして。まったく、何を探しに行ってしまわれたのやら……」


 それでも、嫌ってはいないのだろう。ユーノ様の言葉には、情が滲んでいた。

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