第289話 クロスステッチの魔女、知った顔を見つけて安心する

 ターリア様が来られてからは、皆、ターリア様を囲んでのお話合いとなった。ガブリエラ様とミルドレッド様はターリア様の後ろに控えて「お弟子様」として声をかけられていて、あの時何気なく依頼で知り合った人たちが結構すごい魔女なのだと知ってしまい驚いている。


「お師匠様、ターリア様の後ろに控えておられるのはターリア様のお弟子様なんですか?」


「そうね。グース糸の二等級魔女ガブリエラ様と、宝石糸の二等級魔女ミルドレッド様。普段はごく普通の魔女として生活しておられるけれど、本当はターリア様のお弟子様だ」


「人間の国で言えば、姫君のようなものですよね……?」


 普段は一般の一魔女として、彼女達は暮らしているのだという。鳥の羽の大量依頼なんかも、『ターリア様のお弟子様であるガブリエラ様』ではなく、『一等級に近い実力者であるガブリエラ様』として依頼を出しているのだとか。羽の需要はいくらでもあるからいつまでも依頼が完全完了することはなく、結果的に皆が恐れる依頼になったらしい。


「前に一度羽の納品に行った際、もう一人姉妹弟子の方がいたと思うんですが……」


「ターリア様のお弟子様って、あのお二人以外にも何人もいるんだよ。あの御方がどれだけ魔女をやっておられると思うんだい。その中で予定のつく二人が、ああして付き人をされるんだよ」


「すごい話ですね……」


 考えてみたら、私の姉妹弟子だってグレイシアお姉様の他にも何人もいるのだ。……名前だけ知っている、もう一人の『クロスステッチの魔女』も含めて。お師匠様よりもずっと魔女をしておられるターリア様のお弟子様が、もっと沢山いるのは当然の話だった。


「あら、クロスステッチの魔女ちゃん! 招待されたと聞いていたけれど、その服も似合っているわね」


「ありがとうございます、ガブリエラ様。正直、とっても緊張しています……」


 ガブリエラ様はターリア様と似た形の服を着ていたけれど、薄い布を沢山重ねているのではなく、一枚の黒い布で仕立てているようだった。多分、グース糸を黒く染めたものなのだろう。手袋まで温かそうに見えた。ターリア様がしているような顔を隠す垂れ布を顔の左半分だけにつけていて、化粧もされていて、知らない人にも見えるほど綺麗だった。隣のミルドレッド様はキラキラした宝石糸の服に、右半分を隠す垂れ布。


「お二人で対になっているの、とっても素敵です!」


「今年のお付きは私たちだからって、みーちゃんがノリノリでねえ……また新しいの仕立てちゃって。みーちゃん今度のドレスは何の宝石でできているんだっけ?」


「《乙女の腕》鉱山の夜瑪瑙よ」


 いくらするかは聞かない方が良さそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る