第286話 クロスステッチの魔女、緊張する
まず感じたのは、何人分もの視線だった。皆、魔女とその《ドール》だ。値踏みされていることも感じた。三角帽子の先端から、靴の爪先までじろじろと。ある程度はお互い様、だろう。私も多分観察する。四等級魔女試験の時よりも、視線は少なかったが緊張は段違いだった。あの時よりも高位の魔女が、ここには沢山いるのだ。
「人が沢山いますね……」
「私、かなり緊張してるかも……」
「試験をするわけじゃないんだ、気を楽におし」
そんな会話をしていると、給仕服を着た《ドール》が飲み物を薦めてきた。大人しくもらって一口飲むと、お酒が体を温めていく。城の中は魔法で過ごしやすくされているとはいえ、冬の夜にはぴったりの温めた葡萄酒だった。
一口飲んで凝り固まった気持ちを解きほぐすと、今度はどんな魔女が来ているのかが気になってきた。周囲をぐるっと見回してみると、知った顔を見かけた気がしたがすぐ人混みに紛れてしまった。みんな黒い服を着ていて、彩りがあるのは《ドール》達だけだ。大きさも様々な《ドール》が、それぞれの魔女の作品を身につけている。ビーズ細工や刺繍、服、マント、色々。私は二人の首に巻いたリボンに少し刺繍をしただから、空を飛ぶためにグレイシアお姉様が施した刺繍の方が目立つかもしれない。それを見て私も今度、ルイスにこの刺繍の上着を作ってあげようと決めた。
「あら、アルミラ。その子があなたの弟子?」
「そうよ。ほら、挨拶なさい」
そんなことを考えていたら、背の高い魔女がお師匠様に声をかけてきた。促されて、一礼して挨拶する。
「クロスステッチの四等級魔女といいます。この子は、私の《ドール》のルイスとアワユキです」
「なるほど、秘蔵っ子のお披露目ね。あたくしはアルミラの友人、ベルベット織りの二等級魔女カルメン。《ドール》はセレーナよ」
黒い髪に黒い目の魔女がそう挨拶をすると、その後ろに控えていた薄い金髪と冬空の瞳の女性の《ドール》が頭を下げた。通り名の通りベルベットの服を二人とも着ていて、布も縫製もとで美しい。ベルベットは扱いが難しい生地だからとあまり触らせてもらえなかったので、憧れの生地だった。
「セレーナと申します」
「ぼ、僕はルイスです。よろしくお願いします」
恐縮しているルイスが可愛くて、私はついつい頭を撫でてしまった。
「あら、微笑ましい。修復師の弟子だからかしらね、優しい子じゃないの」
「まさか。まだまだ一人で買い物に出すのにも心配するような子だよ。この《ドール》だって、夜市で変なの掴まされてきたんだ。行儀のいい子なのが奇跡さ」
お師匠様の返事がルイスにどう聞こえてるか心配だったが、気にしてはなさそうでホッとした。
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