第285話 クロスステッチの魔女、入城する
私がお師匠様と共に、何か透明な幕のようなものをくぐった、と思った途端。高い空を飛んでいたはずの私達は、地表……か何かのすぐ近くにいた。土と石畳が見える。苔が生えていて、何人かの魔女が箒で着陸しているのが見える。お師匠様に続いて恐る恐る私も着陸すると、確かに地面を踏む足の感触があった。
「ここは魔女の浮島って言ってね、大昔の魔女が魔法で作り上げたとされている場所なんだよ。年越しの夜会とか、お偉い魔女様方の会議とか、あと高位の魔女試験はここで行われる」
「すごいですマスター、僕達の足元に雲があります!」
「こんなに高くには来たことなーい!」
キャッキャッと盛り上がってる二人が島の縁に湧いている雲に触っているのは落ちそうで見ていて怖かったので、戻ってくるようにだけ言った。素直に私の方に来てくれる子達で、本当によかったと思う。そんな光景を何人かの魔女が、こそこそ何かを囁きながら通り過ぎていった。明らかにこちらを見ながらだったから、少しむっとはしてしまう。気になるのなら直接言ってくれればいいのに!
「クロスステッチの魔女」
会場はこっち、と案内しようとする直前、お師匠様は私の耳元にこっそりと囁いた。ルイス達にも聞こえないように。
「ルイスがどういう子か、裁判の結果は漏れないから知らないだろう。けれど同じ核の《ドール》が来ている可能性もある。中古で買ったとだけ言って、後は知らぬ存ぜぬとしらばっくれしまうんだよ」
《裁きの魔女》様方の魔法で、そもそもそういうことは話せないはずだけれど、と一応忠告をしてくださったらしい。私は頷いて、お師匠様のすぐ後ろを歩き出すことにした。
「あんたはあたしの秘蔵っ子とも言われてるから、恥かかすんじゃないよ」
「努力します……」
「背筋をしゃんとなさい!」
慣れない姿勢を維持する努力をしながら、なんとか私は夜会の会場に入ることとなった。
年越しの夜会の会場として使われているのは、茨があちこちに絡みついた古いお城だった。ところどころでは白と赤の冬薔薇が咲いていて、いい匂いがしている。どこのお城かを示す印があるわけではなさそうだし、あったとしても無学な私にはわからない。けれど、ここはずーっと魔女達の城なのだろう。
「エレンベルクの正式名称、覚えてるかい?」
「……なんでしたっけ……」
「エレンベルク=魔女二重王国。ここは、その魔女側の城さ。冬薔薇城という。迷子にならないようにするんだよ」
こくこくと頷いて、お師匠様の後ろをついて城の外の門から中の広間、そして大きな薔薇の彫刻のついた扉の前に来る。お師匠様が招待状を手渡すと、扉の前で立っていた魔女がその奥へ手を差し伸べてくれた。
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