第268話 クロスステッチの魔女、家路を戻る

 私は遺跡の話をした後、丁寧に彼女達の元を辞すことにした。そこまで急いでいない旅とはいえ、一晩泊まったりしたら緊張で眠れなくなると思ったからだ。


「マスター、牛乳をたっぷり淹れた甘いお紅茶というのはいいものでしたね」


「少し分けてもらったから、家に帰ったらまたやりましょうね」


 出発の前、魔女様達にお茶の作り方と茶葉を分けてもらっていた。彼女達は私がお茶を作ってみたいと言うと、快くくれたのだ。


「秋の間にミルクも用意しておいて、寒い冬に飲めたりしたら素敵だと思うの」


「絶対においしいです!」


 前よりは少し涼しくなってきた空気の中を、また箒に乗って飛ぶ。こうやって飛び続けているからか操作はかなりうまくなってきたと自負できるほどで、お師匠様の元で飛行を見せるのが楽しみだった。ちょうどいい枝を見つけたら、今日は少し早く休んでもいいかもしれない。


「あら、よさげな木がある。今日はここで休みましょうか」


「「はーい」」


 私は森の中で少し背の高い木に挨拶をして、その枝を今夜は借りることにした。魚を焼きながら、起こした焚き火の火と月を明かりにして、前に作っていた魔法の改良に取り掛かる。前より《魔物除け》はしっかり施しておくことにした。私やルイス達が身につけるものだけではなく、《結界》のリボンに《魔物除け》の意匠を足しておくことにした。お師匠様が前に見せてくれたものを真似て刺した魔法に魔力を吹き込もうとして、少し止まった。もしも間違えていたら大変だ、魔法が暴発して事故を起こしてはいけない。少しずつ魔力を注いで、魔法の様子を観察することにした。


「マスター? どうしたんです?」


「慣れない魔法を使ったから、慎重にしないとと思ってね。んー、これであってると思うんだけど。アワユキ、これ、《結界》と《魔物除け》になってると思う?」


「大丈夫そうー?」


 元々精霊であるアワユキには、私よりよく見える目がある。私の発動しかけてる魔法が問題のあるものなら、何某かを言ってくれるだろう。魔力を注ぎ込んで魔法を発動させると、リボンがくるりと円を描いて予定通りの魔法を発動させた。この円が解けるまで、魔法は持続する。かなり最初の頃に覚えた魔法の二つを組み合わせて使えるようになったことに、私は自分の成長を感じていた。……それこそニトゥグレニフトみたいな魔物に出くわしたらどちらも破られるだろうけど、でも、ないよりはマシだ。


「おやすみなさい、マスター」


「おやすみー」


「ええ、おやすみ二人とも」


 地図は近くの脅威を示さないから、安心して目を閉じられた。

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