第267話 クロスステッチの魔女、遺跡の話をする

「そういえば、異国の四等級でクロスステッチの魔女、というとあなたのことですかね? この間、遺跡番の魔女から《ダイアライアの町》遺跡についての話を聞いたのですが……」


 お茶を飲んで一息ついた私に、そう話しかけてきたのはお茶を淹れてくれた魔女だった。彼女の口から「大発見」として語られたのは、ルイスが触れることで発見された乙女の像の「手紙」のこと。何が起動条件かはまだわかっていないようだけれど、今まで誰も《ドール》があれに触れたことはないのか、ただの《ドール》以外の条件があるのか、本当に未発見だったらしい。


「私も、あれには驚きました。細かく美しい魔法が幾重にも書き込まれていて、本当に完璧に自分の気配を消していたんです」


「それで、ダイアライア様からの言伝を見た、と……」


 多分、その名前のことを皆、聞いていたのだろう。悲劇の魔女の名前は、口にしていなかった。悪い名前は口にしたら、悪いことが起きるという信仰が一部の地域にある、という話を思い出していた。私の暮らしている辺りよりも、どうやらそういった信仰は強いらしい。


「ダイアライア様の名前は、西の方でも有名ですから。それで来てみたいって思ったんです。ダイアライア様の遺物となれば厳重に管理されているから、私のような未熟な魔女では見たり触れたりもできないものですし」


「ああ……確かにダイアライア様の遺された物となると、基本的には魔力が強いものだからね。未熟な魔女が迂闊に触れれば、魔女の魔力を吸い上げてしまう。こちらでも保管のできるものは厳重に管理するけれど、《ダイアライアの町》は町ひとつ。地形が変わってる以外はあまり魔法の気配がないからって、番人を置いて普通の人もある程度見学できるようにしていたけれど……新しい魔法が出て来た以上、別の方法を考えないといけないわね」


 ライラ様に言われて少し緊張するけれど、怒っているわけではないらしい。それよりも、古い遺跡に新しい発見があったことで、古い魔法を研究している魔女達が活気づいているらしい。


「ダイアライア様は世界的な魔女だから、間違いなくこの話はエレンベルクにも伝わると思うわ。もしかしたら、あなたも新発見の魔女として褒められるのかもね」


「それ以上に、迂闊なことをするなって叱られる気がします……たとえお許しがあったとしても、勝手にぺたぺた触るなって言われていたので」


 私が少し大げさに肩を落として見せると、魔女達はくすくすと笑った。それは嫌味な笑い方ではなかったので、私もほっとした。

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