第266話 宝石細工の魔女、異国からの訪問者を観察する

 温かいチャイを飲んで一息つく、異国の魔女はまだ若かった。見た目はもちろん若い娘の姿をしているのだけれど、感じる魔力が若く成熟したてのものだった。雪が降る西の方からやってきた彼女は肌が白く、すべて繋がった服を着ていて、黒い髪に青い目をしていた。連れている少年型の《ドール》は銀色の髪に赤い目と、歯車を封入した目をしている。西の流行りなのか、欠けたものを補填したからなのか。もう一体連れているのは、彼女のような若い魔女には似合わない《精霊人形》だった。ひんやりした気配がするから、中にいるのは雪の精霊かもしれない。毛皮での素体作りがうまくできているから、精霊も元気そうだった。


「まだ若いのに、ニトゥグレニフトに遭うなんて災難ね」


「お師匠様が怖がらせるために作った話しかと思っていたら、一度だけ発生しかけの小さいのに出くわしたことがあって……それはすぐお師匠様が退治してくれたんですけど、大きくなると、その、段違いですね」


「《ドール》くん達も怖かったでしょう。ほら、甘いお菓子もおあがりなさいな」


 私の《ドール》、ジュマーナが甘いものを食べるよう勧めて、やっと少し緊張がほぐれたようだった。まだ中身の《核》も若いような……ん、少し違う気がする。《名前消し》されたモノ特有の、少し噛み合わない感覚があった。

 この魔女は中古の《ドール》を買って、大事にしているらしい。少し珍しいと思った。最近の子は、新しいものを欲しがる。自分だけを愛してくれる《ドール》を買って、自分の魔法だけに染めたがる。だから、誰かの癖と魔力のついた古い子は敬遠されることが多いのだ。そういう子こそ、かわいいというのに。


「あ、ありがとう、ございます……その、僕、ルイスって言います。マスターの《ドール》です。マスターを守るって決めていたのに、僕、守られてばかりで、何もできなくて。怖くて動けなかった、自分が情けないです」


「ニトゥグレニフトが相手なら、仕方ないわ。あれはそういう恐ろしい魔物だもの。私たち《ドール》を好んで食べるし、魔法を引き出すのがうまくできない私たちの武器ではアレと戦えないわ。だから、私の主様も私を置いていったのよ」


 心なしか、恨みがましい目を向けられている気がした。ニトゥグレニフトが相手だから仕方ない、と理を説くのであれば、自分も納得してくれなければ困るのだけれど。


「ルイスは私のかわいい《ドール》だから、私が守らなきゃって思ったんです」


「かわいいより、かっこいいがいいのに……」


 少し頬を膨らませて不満そうに呟くのは残念ながらかわいらしくて、私はジュマーナと顔を見合わせて笑った。

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