第265話 クロスステッチの魔女、魔物の話をする
「あなた、自分の《魔物除け》は持っていたの?」
「ええ。でも効き目に不安があったから、お師匠様に渡されていたお守りを咄嗟に使いました」
「そういう時は信頼できる、確実なものを使いたくなるのは世の常だものね」
温かいお茶で一息つきながら、私は同じように座っている魔女達に聞かれるままに話をしていた。
エレンベルクの国から、気まぐれに採取の旅をしていたこと。《ダイアライアの遺跡》まで行ったが、そこでそろそろ帰ることにして、戻ってくる途中だったこと。その途中、エレンベルクで買った地図に『何か四等級の手には負えないもの』の存在が示され、慌てて隠れるための魔法をいくつか使ったこと。それでもニトゥグレニフトとなれば自分達も近くの町も危ないので、ダメ元で近くの魔女組合を目指し盲打ちの波を飛ばしたこと……。
「本当に、助けていただかなければこの子はかきっと食われてしまってました」
「僕からも、ありがとうございます……あんな、悍ましいものがいるだなんて。あの食われていた手足の持ち主は、可哀想に……」
物憂げに俯くルイスに、私は砂糖菓子をひとつ食べさせてやった。
「大丈夫よ、このあたりで《ドール》が食われたって報告は来ていないの」
「ニトゥグレニフトは一級討伐対象だから、見かけたり、自分の《ドール》が被害にあった時は、魔女組合への報告が義務付けられているんだ」
「最近は、《ドール》が丸ごと食べられてしまった話も、あまり聞かないしね」
魔女はニトゥグレニフトにみすみす、自分のかわいい《ドール》をやられて黙っているような無力な存在ではなく。《ドール》の技術を進歩させることで、この魔物に対抗を続けていた。
例えば手足を切り離し、トカゲが尻尾を切って逃げるようなことを《ドール》にもできるようにした。これは様々な他の要因で手足に欠損を生じさせた際、《核》への負担も少なく修理ができる方法として、今はみんながこの方法で作られた《ドール》を持っている。ルイスも古い子だけど、ここは他の皆と同じだった。
《核》を抜き取って、心だけ保護するという手もある。ただし、これはとても繊細なパーツなので、新しい体に移し替えた時に何らかの後遺症を残すこともあるらしい。少なくとも、ただ失われて嘆くだけにならないよう、対策はあれこれとされているのだ。それでも襲われないに越したことはないし、私に落ち着いて手足を取り外したり、《核》だけ取り出したりする自信はなかった。
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