第264話 クロスステッチの魔女、異国のお茶で一息つく

 柔らかい敷物の上にへたりこんで立たなくなっていたけれど、他の魔女達も同じように座っていたので、安心してそのまま足だけ畳んでおくことにした。あんまりやらない姿勢だから、足が妙な感触はしているけれど。


「せっかく異国に来たのにニトゥグレニフトに行き遭うだなんて、災難でしたねぇ。ささ、この甘ーいお茶をどうぞ」


 ビーズを編み込んだ髪をさらにおさげに編み込んだ小柄な魔女が、そう言って私にいい匂いのする温かい木のカップを渡してくれた。ミルクをたっぷり注いでもらったらしく、全体的に中身のお茶は白っぽい色をしている。懐かしいミルクの匂いと一緒に、これも色々なものを混ぜられているのか香料の匂いもしていた。熱いお茶をふーふーと息を吹きかけて冷ましてから飲むと、ヤギのミルクの甘味と複雑な香辛料の味、そしてお茶の苦味が広がる。おいしいし、体が温まってほっとする味だった。人間だった頃に教えられていたら、連日飲んでいたかもしれない。


「おいしい……」


「よかった。《ドール》さん達は?」


「アワユキ、からいのいやー」


「ルイスには飲ませてやってください。ニトゥグレニフトの直視は、辛いでしょうから」


 ルイスの小さなコップにも、同じものを淹れてもらった。それまでどこか緊張していたのが、お茶の力でほぐれていくのがわかる。


「おいしいです……」


「よかった、よかった。ライラ様には、お茶の魔女に改名しろって言われてるんですよねぇ」


「それだけお茶を淹れるのがうまいからよ。飲むミルクも違いそうな異国の魔女だって、この通りなんだから」


 宝石細工の魔女ライラ様の言葉に、褒められた彼女は照れくさそうな顔をしていた。気持ちは少し、わかるかもしれない。


「ニトゥグレニフトを出したのがどこの魔女の不手際だったのかは、こちらで調べておかないとね。今回はあなたが町にすぐ逃げ込まず、こちらを水晶で呼び出す判断にしたのは正解よ」


「おまけに偶々ライラ様がお暇だった時に繋がるだなんて、あなた、持ってますねぇ」


 褒められたような気がして、私も照れくさくなった。ニトゥグレニフトは《ドール》の不法投棄や、パーツの不始末からその味を覚えられて生まれる。つまり、そういうことをしなければ発生しない魔物だ、というお師匠様の言葉を思い出していた。


「この間、不法に捨てられた子を見つけて通報したばかりだったんです。あの子の体はバラバラにされていたんだすが、もしかしたら、一部はニトゥグレニフトに成り果てたかもしれないと思うと恐ろしかった。

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