第263話 クロスステッチの魔女、異国の魔法を体感する
「四等級ちゃん達、無事?」
ニトゥグレニフトが滅んだのを見届け、振り返って聞かれた言葉に頷く。お守りに口付ける仕草をすると、私にかけられていた魔法と制約が解けるのを感じた。二人にも同じようにしてやって、やっと口が開けるようになる。
「ありがとうございます。私だけでは、いくら《魔物除け》があってもダメでした」
「その魔法、あなたの?」
「いえ、私の師匠のものです。私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの魔女といいます。助けてくださり、ありがとうございました」
そう言って心臓に手を当てる最敬礼をすると、気さくそうに笑った彼女は「この間作った魔法、試せる魔物が欲しかったの」と言って笑った。落ち着いて考えれば、彼女の名前はあれだろう、と検討がつく。
「宝石細工の一等級魔女ライラ様、お会いできて光栄です。この子達は私の《ドール》の、ルイスとアワユキです。二人とも、もう口をきいてもいいからお礼を言って」
「ありがとー!」
「ありがとうございます。マスターの敵は僕が倒すつもりでしたが……あれ相手だと、多分、やられてました」
「《ドール》があれと戦うのは無謀よ。ニトゥグレニフトは、あなたたちの天敵のようなものだから」
ルイスが前に見せた、あの魔力を放出する技でやっと、傷をつけられる程度だろう。あの粘液を固めたような体には武器の力が通りにくく、かつ、《ドール》の手足を絡め取って襲ってくるのだ。《核》さえ無事ならもう一度体を新しく組んでやることも可能とはいえ、愛着のある体をひとたび食われてしまえば心の傷にもなる。一度あれに手をつけられてしまえば、そこから魔力を吸い上げられてパーツが破損。最悪、《核》にも悪影響が及ぶのだから。
「ここは浄化の得意な魔女達に後をやらせるから、あなた達はいったんこちらにいらっしゃいな。もう少し融通の効くお守りも用意するから」
「え」
何かの香りを焚き染めた衣と腕が私に触れたかと思うと、彼女の手には緑色の石が握られていた。魔力が通りかけた様子に、慌ててルイスとアワユキを強く抱きしめる。
次の瞬間には、私達は、おそらく近くの魔女組合らしい建物の中にいた。空間転移の時間はまばたき程度のもので、それで触れてるだけの他人やその持ち物、ルイス達までなに一つ損なわずに飛ばすのだから、やっぱり一等級魔女はとんでもない力の持ち主だ。
「ライラ様、ニトゥグレニフトの討伐を確認しました! その人達はもしかして……」
「ええ、連絡をくれた子よ。この子達の《ドール》も無事。沈黙制約の《魔物除け》は、古風なお師匠様からのお守りだったみたい。甘いお茶を淹れてあげて」
職員らしい魔女に敷物の上を案内されて腰を下ろすと、なんだかどっと疲れてしまった。
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