第262話 クロスステッチの魔女、一等級魔女の戦いを見る
一等級魔女になるには、美しさで頭ひとつ飛び抜けてなくてはならない。それは顔の美醜ではなく、作り上げるものの美しさだ。老木のように歳を取ってから魔力が完成し、老婆の姿をしていたとしても、作り上げるものが美しければ一等級に認定される。それが、魔女の世界だ。顔よりも、装身具よりも、自分の作り上げる作品で勝負をする。
一等級の魔女は数が少なくて、皆有名だった。この魔女は誰だろう、と、戦いの様子を見ながら考える。彼女がポケットから出してきた煌めく赤と青の石をニトゥグレニフトに投げつけると、その宝石は魔力を集めて輝き、赤い石は炎を爆ぜさせ、青い石は凍り付かせた。その強い力は、私の魔法で作り出す火が蝋燭に、氷が緩んだものに思えるような、強いものだった。
ビキ、ビキ、と音を立てて、ニトゥグレニフトの黒く悍ましい肌が凍りつき、剥がれ落ちていく。落ちた部分はまるで……そう、綿を丸めてフェルトを作るときのように、破片がキュッと縮んで、丸くなって、消えていった。別の箇所が炎で焦げたニトゥグレニフトは、さらに縮んでいく。
剣が抉り出して取り外された《ドール》のパーツ達が、地面に転がっている姿が痛々しかった。それらはあちこちに罅が入っていたり、傷んでいたり、魔力をニトゥグレニフトに吸われてまだらになっていた。ルイスを抱きしめる。私の魔力を充填させた体に、さらに魔力を沁み渡らせるようにした。
「もうすぐ滅ぼせるかしら」
ぽつり、と彼女が呟く。気づけば、ニトゥグレニフトの大きさは半分ほどに縮んでいた。《ドール》の部品を取り外してしまうことで、ニトゥグレニフトがそこから魔力を吸い上げないようにしたらしい。外した部品に触ろうとする触手を剣が斬り捨てると、先端が焼け焦げた。よく見ると何本かの剣は刃が金属ではなく、赤や青、緑の石でできていた。石でできた羽を彼女が翳したかと思うと、ニトゥグレニフトが竜巻に包まれて空中へ持ち上げられた。
「四等級ちゃん、あなたのおかげで新しい魔法が試せるわ。ありがとね」
彼女はこちらを見て笑ってみせたかと思うと、大きな卵ほどの大きさの石を出してみせた。石に詳しくない私でもわかる、あれはオパールだ。ルイスの核と同じ。複雑な細工がされていて、彼女の手がそれらの模様をなぞる度に火や風や氷が吹き出した。やがて、それらは人を模した七つの形を取る。
「滅ぼせ。七精霊の似姿よ、ジンニーアよ、彼の悍ましい敵を欠片も残さず滅ぼせ」
目も眩むような光の奔流として七つの影が殺到し、閉じてしまった目を開けると――もう、ニトゥグレニフトはいなかった。
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