第261話 クロスステッチの魔女、魔物狩りの魔女と会う
私の水晶の上に揺らめく《虚繋ぎの扉》は、素早く安定したかと思うとその向こう側から女の手を出してきた。褐色の肌をしていて、爪は何かの染料で綺麗な赤や青や緑に塗られている。しかも、その上には小さな光る石や何かの鱗、羽が飾られたり塗り込められていた。どうやっているのかはわからないけれど、ルイスの目を歯車細工の魔女が作ったようなものに近いのかもしれない。指先から手にかけては、蔓草のような模様が黒い染料で描かれていた。もしかしたら、刺青かもしれない。
真っ赤に染められた人差し指がニトゥグレニフトをつ、と指差した後、くるりと円を描く。その軌跡をなぞる形で魔法の魔法の気配がして、何もないところから炎が現れた。それはニトゥグレニフトの黒い肌を焼き、木が燃えるよりも不快な焦げ臭い臭いをさせる。文字にできないような汚い悲鳴に耳を塞ぎたくなったが、それより自分達の口を塞ぐ方が必要だった。
その間に、大きく広がった《虚繋ぎの扉》から、魔女が現れていた。口元を石のついた白い布で隠していて、頭には花嫁のような宝石のついたヴェールをしている。それらの布は何か魔力ある素材を織り込んでキラキラと光っていて、薄桃色の服もそうだった。服はお臍を晒す形で上下に分かれていて、旅の途中で時折見かけた服を改めて近距離で見ると、自分の服でもないのに少し恥ずかしくなる。下半身に履いているのは、男でもグレイシアお姉様でもないのにズボンだ。足首には鈴のついた組紐を巻いていて、裸足になっている。肌のあちこちには、手だけ見た時と同じような曲線の模様が見えた。
首からかけられているのは、金色の糸が編み込まれた首飾り。一等級の魔女に、初めて会った。彼女は私達に向けて、唇らしきところに人差し指を立てる沈黙の仕草をする。それに頷くと、彼女は目を細めて笑いかけた後に魔物に向き直った。
「踊れ、我が剣達」
凛とした声と共に指を鳴らすと、彼女の周囲にどこからともなく沢山の剣が現れた。どの券も幅が広く、分厚く、三日月のように反り返っていて、持ち手のところに宝石らしきものがついていた。
剣達は魔女の命令に従い、ある剣はニトゥグレニフトに突き刺さり、別の剣は魔物の複数の目を翻弄していく。どれも複雑な軌道を描いていて、コップのひとつさえまっすぐ飛ばせない私には届かない技だった。
(これが、一等級の魔女……!)
夢中になって、その様子を見てしまう。一等級の魔女には、それだけの美しさの魔法がある。剣はニトゥグレニフトの肌を抉り、魔物の取り込んだ《ドール》の部品を穿り出していた。厳しい視線で睨む、彼女の目さえも美しかった。
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