第259話 クロスステッチの魔女、魔物と対峙する
移動してくるバツの印は、まっすぐこちらに向かって来ていた。そこまでのお金はないし避けるからいい、と、詳細はわからない簡易なものにしたのが痛い。相手がナニか、さっぱりわからない状態だった。
「マスター、どこか近くの町に逃げ込むとかは……」
「それはダメよ、そんなことしたら魔物を町に呼び込んじゃう。《魔物避け》の結界が全ての集落にあるわけじゃないし……何より、遠い!」
「確かに遠いねー」
ルイスの進言を、悪いと思いつつ却下する。相手が地面の底から湧いてくるのか、空から突っ込んでくるのか、地を走るのかもわからない。こんなことならケチケチしないで、詳細のわかる地図にしておくべきだった!
「とりあえず、《魔物避け》の魔法はこっちでも持ってるから展開させておいて……ルイスの剣も、もしかしたら使ってもらうかも!」
「はいっ!」
《魔物避け》の結界を刺した四角い布を頭上に広げ、魔法を発動させる。お師匠様やお姉様ほどではないけれど、それなりに細かな結界が花開いた。そのまま道の隅に結界ごと移動して、《姿隠し》の魔法のお守りを私、ルイス、アワユキのそれぞれに持たせて魔法を発動させようとした。その前に、二人にこれを使うのは初めてだった気がするので、警告する。
「いい? この魔法は、口をきいたら壊れてしまうの。今から魔法を発動させたら、声を出してはダメよ」
こくこくと頷いた二人の様子を見ながら、持たせたお守りに魔力を通す。《手で塞がれた目》を緻密に刺したお守りは、声を出さない縛りさえ守れば絶大な効果を示す。私の作品ではなく、お師匠様のものだ。昔、どうにも私がそそっかしいからとくれたものだった。自分たちで魔力を通せるから、魔女用のお守りは人間の頃に持っていた物より効果が強い。同じくらい、制約も強いけれど。
(私の《魔物避け》でなんとかなるものだったら、バツつけられてないだろうし……やっぱり早く帰ろう)
そんな風に考えながら地図と周囲を見比べていると、ソレ、は現れた。上げそうになった悲鳴を必死に飲み込む。
――四等級の未熟な魔女に対して警告されるようなモノは、かなりある。だから、そういう類だと思っていた。場慣れた冒険者や魔女であれば討伐できるけれど、私には荷が重い。それくらいの存在を。でも、違った。
(コレが現れたなんて……! 魔女達は知っているのかしら、そうでないなら急いで伝え……あっ、水晶で話すとお守りの効果が切れてしまう)
考えろ。考えろ。考えろ。危ないのは私より、ルイスだ。アワユキだ。この子達をおめおめ危険に晒すようでは、マスターと慕われる資格がなくなる。私は二人の口を塞いで必死に頭を捻り、知恵を絞り出そうとしていた。
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