第251話 クロスステッチの魔女、遺跡に足を踏み入れる
「あんたのような西の魔女が、わざわざこんなところまで箒を向けたのも驚いた。何か、この辺りに用向きがあることで?」
「あっ……私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女と申します。この子達は、私の《ドール》のルイスとアワユキ。その、気まぐれな素材集めの旅の途中に、この遺跡の話を聞いたんです。かのダイアライア様の遺されたもののひとつとあれば、是非とも一目、伺いたいなと」
名乗りが遅れたことを思い出して丁寧に一礼した私たちに、彼女は「これはこれはご丁寧に」と笑みを含んで一礼を返してくれた。胸に手を当てる仕草が追加されているのは、このあたりの流儀なのだろう。
「あたしは町番の魔女――の方が最近は通りがいいんだけど、一応正式に名乗っておくかね。じゅうたん織りの二等級魔女ライラの弟子、じゅうたん織りの二等級魔女アーティカ。普段はここで遺跡の面倒見てるから、遺跡番の魔女って呼ばれてる。……まぁ、遺跡番といっても、物々しいものがあるわけではないのだけれどね。ダイアライアの遺跡だから、一応必要なのよ」
「魔力、強いですものね……」
町を覆う《魔物除け》の結界は古びていて、おそらくは少しずつ遺跡番の魔女が補填している気配がある。古びた織物を少しずつ繕っていくように魔力を補填しているようだけれど、魔法の古さに対して補填されてるのはほんの一部。つまり、大半は当時魔女ダイアライアが注ぎ込んだ魔力が生きているということだ。
「町そのものはただの廃墟だけれど、古い魔法が濃いから番人が必要なのさ。さ、おいで、案内しよう」
遺跡番の魔女アーティカが門の扉に触れる。よく見ると古く堅い木の扉に薄く重なるようにして、織物の模様が見えた。これが、彼女達の魔法のじゅうたんなのだろう。じゅうたんをあまり見たことがないから、なんとなくだけれど。
「……《イフタフ・ヤー・シムシム》」
小さく彼女が何かの呪文を呟いたかと思うと、織り込まれた魔法の言葉が光って霧散した。重い音を立てて扉が少しずつ開き、死んだ町が現れる。
「わぁー……!」
古い石造りの家々。全体的に埃を被り、人気のない、がらんとした町。誰も住まなくなって、死んでしまった町。風が通ることもあまりないのか、埃が乾ききった独特の匂いがした。町の天蓋を覆う魔法は、この町を守るための愛と守護の魔法だというのに……誰もいない。空の巣を守る魔法が、なんだかもの寂しく感じた。
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