13章 クロスステッチの魔女と古い魔女の遺跡

第250話 クロスステッチの魔女、遺跡に辿り着く

 私たちが箒で出立してから遺跡に到着するまで、箒でも一日半かかった。その間も面白い草を摘んでみたり、魚を焼いて食べたりしていたから、寄り道をしなければ一日で辿り着けただろう。まあ、そこまで急いでいる旅でもない。冬備えのことはあるけれど、まだもう少しは余裕があるだろうと見込んでいた。


「マスター、魔女ダイアライア、ってどのような方なんですか?」


「ターリア様よりも古い魔女でね、いくつかの伝説に名前が残っているの。気ままの魔女ダイアライア、縁結びの魔女、縁切りの魔女、色々に言われているそうよ。家にある、あの、大きな魔女のお話の本にも、魔女ダイアライアのお話は載っていると思うわ」


 帰ったら読んであげるね、と言うと、ルイスは嬉しそうに頷いた。そんな横でアワユキからぽろっと漏れた、「魔女ダイアライア、知ってると思うー」という言葉に驚く。


「アワユキ、知ってるの?」


「前に精霊の中で、噂になってた気がするのー。ダイアライアの魔力に釣られて呼び出されると、こき使われてたーいへん!って!」


「ああー……」


 魔女ダイアライアの強大な魔力の伝説において、精霊の力を借りる場面は多い。ダイアライア当人の魔力ももちろん強いが、精霊の力を借りることでより強大な魔法を作ることができるのだ。それが精霊にとっては、「こき使われる」ということなのだろう。伝説の裏側が見れたようで、ちょっと面白かった。


「あ、あれですかね? 遺跡!」


 ルイスが指差した先には、石造りの建物がいくつか立ち並んでいた。隆起した地形の上に、ちょこんと子供の積み木のように建物があるのが上から見下ろしているとわかる。その周囲は石造りの壁に囲まれていて、うっすらと見える魔法で守られているのがわかった。どうやら、正規の入り口――おそらくは、門――からでなければ、訪問できない仕組みになっているようだ。


「入り口はー……えっと」


 くるくると箒で入り口を探すように旋回すると、ちょうど私たちは裏にいたらしい。壁を半周したところで、門の前に辿り着いた。


「おや、物見遊山に来た魔女かい?」


「ええそうよ、ここが魔女ダイアライアの遺跡だって言うから見に来てみたの」


 門番をしていたのは、やっぱり魔女だった。長くてまっすぐな黒髪を綺麗にまとめていて、切れ長の黒い目をしていて、この辺りの人間だとわかる顔をしている。


「魔女ダイアライアの遺物も、私は見たことがなくって。四等級でも入れますか?」


「ん-、それなら一人だけで中に入らせるのはちょっとまずいね」


 そうは言われたものの、追い返される感じではないのだけありがたかった。

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