第249話 クロスステッチの魔女、次の目的地へ発つ
おいしい魚料理を食べて、次の日に出発することにした。ここもとても楽しいけれど、もっと遠くまで、色々なものを見に行きたいから。アイシャ達にそう言って、私はさらに遠くへ行ってみよう、と話した時だった。
「それでしたら、魔女様。ここから馬で北に三日行ったところに、物珍しい景色が見られると有名な山がございますよ。大昔に、そのあたりにあったという町の遺跡が丸々残っているんです。なんでも、急に山の上に魔法で押し上げられて人が住むには辛い場所になってしまったから、捨てられた町だとか」
魔法は万能だと思われることが多いけれど、実際にはそこまで万能ではない。特に、現代の魔女はそうだ。魔法の制御に重きを置いているから、古い魔法ほどできないこともある。
「遺跡の名前は、その町にいたという魔女の名前を取って《ダイアライアの町痕》と呼ばれていますよ」
「伝説の魔女、ダイアライアの?」
ターリア様よりも古い、伝説の時代の魔女の名前が聞こえるとは思わなかった。強い力を持ち、人を助け、時に気ままに振る舞った魔女。時に愛され、時に恐れられた魔女ダイアライア。彼女が遺したとされる魔法はどれも古く強く、地形を変えるような魔女としてダイアライアの名前が出るのはおかしな話ではなかった。
その遺跡が町の名前で呼ばれないのは、山から降りた人々が元の名前と同じ町を再建していて現代にも残っているから、混乱を避けるためなのだとか。その他色々なことを教えてもらって、次の日の朝に出発することにした。
「マスターはここを気に入られたようだったから、てっきり長居をすると思っていました」
「それも考えたんだけど、行けるところまで行ったら帰りも考えないとなー、って思い始めてね。冬の用意をしないと」
薪なんかは前回の残りをある程度使えるとはいえ、保存食はまた用意しないといけない。そんなことを話ながら、随分とうまくなった箒さばきで町を出た。
「たのしみー!」
「古い魔法の遺跡って、なんだかワクワクしますね」
「私もすっごい楽しみ! 魔女ダイアライアの遺物はあちこちにあるとはいえ、生で見られる機会は貴重だもの」
それが《砂糖菓子作り》の魔法を発展させて、空中にキャンディーを作るような無害な魔法であったとしても、魔女ダイアライアの遺物の取り扱いは厳重が求められる。恐らくこれから行く遺跡は、魔法そのものではなく魔法のかつてかけられたことがある場所、というものなのだろう。もしかしたら、遺跡番の魔女なんかもいるかもしれない。夢を膨らませながら、私は箒で遺跡へと向かった。
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