第248話 クロスステッチの魔女、おいしいお夕飯を食べる

「ただいまー」


「戻りました」


「あら、アイシャに魔女様。薔薇水が届いてますし、お夕食もできていますからね。小さなお連れ様方もどうぞ」


 宿屋に戻ると、おいしそうなお夕飯ができていた。やっぱり私からしたら贅沢な香辛料の匂いが充満していて、お腹がすいた。いったん荷物を置いてきますね、と言って、部屋にルイスとアワユキを迎えに行く。


「帰ったわ、二人とも」


「マスターおかえりなさい!」


「おかえりー」


 離れていた時間は大してなかったはずだけれど、寂しく感じたらしい。二人からは、やけに喜ばれた。アワユキは窓枠から外を見ていたところから、ルイスは木剣の素振りをしていたところから、私の元に駆け寄ってくる。荷物番も、しっかりしてくれたようだ。


「あちらで飲んだ飲み物が美味しくて、二人に買ってきたの。それに、お夕飯も一緒に食べましょう?」


「「わーい」」


 二人がふよふよと飛んでまとわりついてくるのをかわいく思いながら降りてくると、宿屋の客は少し増えていた。泊まりに来た客かと思ったが、この辺りの服装の人が多い。漏れ聞こえる話の断片からしても、屋台で食べるように夕飯だけここに食べに来た、町の住民が多いようだった。


「あの首飾り、魔女様だ……!」


「よくあそこを出入りしてる方々のとは、色が違わないかい?」


「それでも、あんなものつけてるのは魔女様だけだろう」


「肌の色も服の形も違うから、旅の途中かね」


「魔女様の連れてるお人形はかわいらしいけど、空を飛ぶだなんてこともできるのねぇ」


 旧交を温めたり、今日あったことや笑い話の声の中に、私についての話題もいくつかあった。聞こえてきたけれど、すべて無視をする。二人にもぽんぽんと軽く触れて、気にしないようにと伝えた。この旅の中で何度かこういう無遠慮な好奇心を向けられても、二人はまだ少し慣れないようだった。私もお師匠様について歩いた数年の間は気にしていたけれど、そういえばいつからか、気にならなくなっていた。

 魔女として生きる以上、どの人間の群れからも異物になる。身分の外になる。それが、魔女だ。長い生を美しいものに捧げて、人間の輪からは外れるという存在。その覚悟を問うために、見習いという期間はあるのだ。親兄弟が、甥や姪や子や孫が、自分を追い抜いて歳をとり死んでいく。それを飲み込んで、生きられると。


「魔女様、こちら本日の魚の香草焼きと伸びパンでございます。小さなお連れ様方にもどうぞ」


 机に届けられたのは、いい匂いのする焼き魚と伸びパンだった。ルイスに魚を、アワユキにパンを分けてやって口にすると、これもまたおいしかった。

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