第237話 クロスステッチの魔女、旅の荷物整理を試みる

 あてもなければ目的地もなく、目標もない暢気な旅は続く。冒険者の二人は依頼の魔物を倒すために来ているというので、《小さな幸運》のボタンを二人のポケットに滑り込ませて別れた。直接渡さなかったのは、四等級魔女である私の魔法に期待をさせないためだ。すぐ加護や魔法をねだるようなこともしない、気持ちのいい人間達だった。そんな彼らは魔法の幸運をあてにはせず、自分の力で困難を切り開くべきだと思った。だから、渡したことさえ教えなかった。


(魔法の幸運があるからって危険度を甘く見積り、痛い目を見た先輩からの訓誡……とは、ルイスやアワユキやあの子達には言えないからなぁ)


 彼らは、私を魔女様と尊敬してくれたので。夢を壊したくないのであった。


 そんなことを考えながら、何日か東に行く。飛んだり採取したりを繰り返しているうちに、さすがにカバンが重くなってきた。


「マスター、ちょっと重そうですね」


「いくら魔法で見た目より入るとはいえ、容量を優先して重量の軽減はそんなにないって言われたし……そろそろカバンの中身を軽くしないとだなぁ」


「それってどうするの? ポイポイしちゃうの?」


 その会話は何日目かの朝ご飯の後、そろそろ出発しようかという頃合いのものだった。私は答えの代わりに、《探し》の魔法を刺し始めた。出来上がった刺繍に魔力を吹き込むと、蝶の形になってひらひらと飛び始める。


「今日はまず、あれを追いかけるわよ」


 地図を開いて方角を確認すると、何らかの危険を示す赤い印の方向へ蝶は飛んでいた。どきりとはしたけれど、目的地は比較的町中のはずなので、気を付けながら飛ぶことにする。浮き上がる前にルイスへ地図を渡した。


「マスター、どうされたんですか?」


「これ持ってて、赤いのに近づいたら教えて」


 ルイスはリボンでクッションに結びつけられてるようなものだから、両手は開いているのだ。これはいい考えだったから、これからもこうして地図を持っててもらうことにした。


「あれを見失わない程度に、ゆっくり……ゆっくり」


 自分にそう言いながら、《追跡》魔法のリボンを投げて蝶へくくりつけさせる。その反対側を私の手首に巻き付けて、蝶に運ばせるより少し早いくらいの速度で飛んだ。空は快晴、少し汗が滲むくらいの暑さの午前中。服も体も魔法で綺麗にしていたけれど、そろそろ水浴びがしたくなってきた。今日は絶対、そういうところを見つけることにする。たまには宿屋でもいい。


「お、見えてきた見えてきた」


 そんなことを考えながら、蝶と共に高度を落とす。目的地は、この国の魔女組合だった。

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