第236話 冒険者の刀使い、魔女について相方と話す

 私とフェルは、冒険者としてまだ新米だ。《冒険者の腕輪》についている宝石で表されている階級も、新米に毛が生えた程度を示す《若葉緑》だ。冒険者組合に登録したてを示す《乳白》からは上がったけれど、先輩にあたる冒険者たちからの新米扱いは変わっていない。


「なあサラ、あの魔女様は俺達と同じくらいに見えたけど、絶対違うよな」


「女に年を聞くなんて、失礼にもほどがあるわよ」


 私の言葉に、フェルは目を合わせないように少し俯きながら「いやそうでなくて」と言い訳を重ねる。確かに、魔女というのは何年も何十年も年を取らないものだけれど、だからって実年齢を聞いていいものではない。


「いやー、あの人って木の上で寝ていただろう? あれって、狩人とか一部の人が昔にやっていた習慣でな。俺も聞いただけで、実際にやる人は初めて見た」


「最近はいい寝袋があるからね」


 質のいい寝袋が安価で手に入るようになったし、《魔物除け》の結界針や《匂い消し》の香り袋もある。それらは魔女様方の一部が10年ほど前に広められたもので、いわく「作ってくれと大量に依頼されるのでレシピを公開」したものだと言われているものだった。それでも一番質のいいものは、やはり魔女様方に作っていただいたものになるようだけれど。


「最低でも、俺達より10は年上なんじゃないかなって……」


「そうだろうね……」


 見た目は本当に、まだ若い盛りの女性だった。黒い髪に青い目で、黒い服、身分証明のガラスの首飾り。彼女は東に向かうのだと言って、箒で私たちと別れたけれど……なんだか、また会うような気がする。採取をしながら行くとも言っていたから、ゆっくり歩くのだろう。


「それにしてもかわいかったなあ、魔女様の《ドール》! 綺麗なお顔に、色違いの目をしていて」


「剣を持っていたあたり、あの子が魔女様の護衛なのかもしれないな」


 私はおもちゃの剣かもと思っていたのだけれど、隣に座ったフェルはちゃんとした金属の音を聞いたらしい。小さいけれど、本物の剣を下げた男の子。彼はかわいい顔だけれど、どうやら魔女様を守る騎士のようだ。

 もう一人連れていた、あのぬいぐるみのような子もかわいかった。つぶらな目をしていたけれど、あの子の身体のパーツは全て魔力を感じるから相応にすごいものなのだろう。


「大金持ちは大金を払って、魔女様から《ドール》を借りることもあるって噂は本当だと思っちゃった。もっとも、《ドール》を維持するための魔力は人間には出せないから、本当にただ借りるだけみたいだけど」


 けれどきっと、長く生きる魔女様方にはそういうものが必要なのだろう。長く長く生きる彼女達にとって、人間の生は短すぎるから。それを思うと、途方のない話だった。

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