第235話 クロスステッチの魔女、冒険者と朝食を囲む

 冒険者、という職業は、実は魔女と対極に語られることが多い。どちらも真っ当な人間たちの営みからは外れていて、身分証明の装身具がある。けど、長い時間の中でもものを作りながら生きている魔女と違って、冒険者は儚い存在だ。武器を手に魔物と渡り合うのは、怪我はもちろん命の危険のある行為。怪我で戦えなくなれば、たちまち冒険者としての人生は終わりだ。他の食べていく手段を見つけるしかなく、それは大抵の場合、冒険者として生きてきて身につけた技量とはまったく関係のない仕事になる。

 それでも、冒険者を志す人間は今もいる。自分自身が吟遊詩人の語る物語や、子供のごっこ遊びになることを求めて。魔女は彼らに時折魔法を求められたり、代わりに素材の採取を依頼する、共存関係だ。


「私、冒険者に会ったのは初めてかも」


「そうなの? 魔女様方には、先輩とかが依頼をもらってきたりしてるけど……」


「自分で採るのが好きなの」


 黒い布を被って寝ていた私のことを、木の上で休む鳥と見間違えました、と言って、弓使いのフェルは恐縮しきっていた。相方だという剣士のサラと、幼馴染の二人で組んでいるのだと教えてくれた。ちなみに、かしこまりすぎておかしな言葉遣いになっていたので、普通に話してほしいとお願いを最初にした。


「魔法で快適な寝床とかも作れそうなのに、どうしてあんなところで寝ていたんですか? 何かの魔法の儀式とか?」


「……懐かしくなって、かな」


「もし急ぎの旅でないのなら、お詫びに朝ごはんを一緒にどうですか? チーズと干し肉とパンが出せます。あと、お茶」


 私が返事をするより早く、反応したのはアワユキだった。ふわりと浮かび上がって私の腕に巻きつき、「主様ーご飯ー」と甘えてくる。ルイスも眠そうに目を擦って起きてきて、フェルとサラを見て小首を傾げた。


「マスター? もう起きられたんですか?」


「ええ、そうよ。この人達が、一緒に朝ごはんをどうですかって」


 危うく鳥として射られかけたことは伏せてそう言うと、ルイスも「そうなんですか」と前向きに受け止めてくれたようだった。私の《ドール》達に、冒険者達は興味津々といった様子になる。


「わぁ、この子達が魔女の《ドール》…! 動いて話せるこんな子達と旅だなんて、楽しそう!」


 そう褒められると悪い気はしなくて、二人の焚き火のところに案内された私は魔法でふかふかのパンを出してやることにした。街から離れてしまえば、ふかふかのパンを手に入れるのは途端に難しくなる。二人に心からお礼を言われるのは、悪い気分じゃなかった。

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