第203話 クロスステッチの魔女、懐かしい交流をする
「リボン刺繍の魔女、お前のイモは山の民か?」
肌の色は白いし、目の色は青いけれど、髪は黒い。 それが私だ。親のことはよく知らないから、親がどうだったかは知らないけど……あの村では、少し私だけ色が白かった気がする。
「そういえばお母様は、山で拾ったって言ってこの子を連れてきたわ」
「エルキニアの山の、上の方にある村で育ちました」
久しぶりに育った地の名前を口にすると、不思議な感じがした。苗字なんてないから、エルキニアのキーラ、というのが外での名前だと言われた記憶。結局、使う機会は二回くらいしかなかった。今は「クロスステッチの四等級魔女」で、エルキニアのキーラ、は私の中の奥底に沈んでいる。誰かに利用されないように。
「エルキニアか、ここから北の山だな。お前の山には私達のような“羽の女”はいなかったのか?」
「いなかったですね……私の住んでいた村には、住民の魔女はいなかったので」
刺し子刺繍の魔女とか、訪問する魔女はいたけれど、住んでいる魔女はいなかった。魔法の力がなければ暮らせない、というほどの辺境ではなかったから、当時は困らなかったけれど。
「確か……占い語りの婆様がいたくらいだったと思います。もう何十年も前の話なので、きっともういないでしょうが」
小石を転がして占いをする婆様の、小さな姿を少しだけ覚えている。あまり話す仲ではなかったけれど、私にも時折り意味深なことを言っていた。その一部は、私が魔女になった今「きっとこのことを言っていたのかな」と思う。
「《トリバネ》の魔女達は、鳥に変身して空を飛べるのよ。これはこちらの魔女も、中々真似られることではないのよね」
「“三番目の雛”はまだ小さいから、変身はそんなにできない。カカ様は、鳥に変じて一昼夜飛び続けられる」
グレイシアお姉様の台詞に、“三番目の雛”がそう補足した。“早く飛ぶ翼”の方は、当然といった顔をしている。
「鳥の羽を集めたがる魔女が最近増えて、我々は少し魔法が使いにくい。今日は、狩りの獲物を売ったお金で、こちらにもいい羽がないか見に来た。それに、雛に“糸の女”達の様子を勉強させたい」
「じゃあ、一緒に見て回りましょうよ」
鳥の羽を集めたがる、という言葉にガブリエラ様とグース糸が頭によぎったが、とりあえずグレイシアお姉様の提案に頷く。私よりも《魔女の夜市》に詳しくなさそうな二人も、自分達だけで行くよりいいと思ったのか頷いてくれた。
「よろしく頼む、リボン刺繍の魔女、クロスステッチの魔女」
よろしくお願いします、と言って、私達はどこから巡るかを相談することにした。
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