第202話 クロスステッチの魔女、《外れ者》に会う
《魔女の夜市》に来るのは、基本的に魔女ばかりだ。人間はあまり来ない。来たところで、人間に価値の見いだせるものが置いてることの方が少ないからだ。《ドール》を養うには魔女の砂糖菓子が必要だから、人間が買ったところで彼らは動くことがない。
「なんだか、懐かしい服装の人がいます」
魔女達の服装は様々だ。異国風の者もいれば、古式ゆかしい者、グレイシアお姉様のように異性の服を着ている人もちらほらと歩いていた。その中でもとある二人組が私の目を惹いたのは、彼女達の服装が懐かしい……人間だった頃に着ていた物に似ているからだった。あれは、山の民の服装だ。木の繊維で織って作っていて、少し固いけど丈夫な服。鮮やかに赤く染めた服に、何かの紋様が走っているのはちらりと見えたものの、鳥の羽を綴った外套で全部は見えなかった。
「ああ、あの人たちは《トリバネ》よ。そういえば、会うのは初めてだった?」
「《外れ者》は、まだ話にしか聞いたことなかったですね」
《外れ者》。ターリア様が定めた魔法を使わず、古く危険な魔法を扱い続けることを選んだ女達。彼女達はだから、身分証明の首飾りも持たない。等級もない。『こちら側のルール』の、外にいる存在だからだ。
「というか、知ってる顔だわ。――“早く飛ぶ翼”! 隣にいるのはイモ? ムスメ?」
「こんなところで会うとは思わなかったよ、リボン刺繍の魔女。隣は私のムスメ、“三番目の雛”だ」
30代ほどに見える大柄な女性は、少し黒っぽく見える肌に黒い髪と黒い目をしていた。髪には白い羽の飾りをさしていて、夏の夜だというのに黒い鳥の羽を綴り合せた長い外套をまとっている。隣の“三番目の雛”と呼ばれていた相手は私と変わらない年代に見える少女で、同じ民族なのか肌や色彩は同じに見えるけれど、顔はあまり似ていない。彼女の外套は“早く飛ぶ翼”と違って、ごく短いものだった。
「彼女達の言うムスメって、こっちで言うところの弟子のことよ。――“早く飛ぶ翼”、この子は私のイモ、クロスステッチの魔女よ。さ、ご挨拶なさい」
こそっと私に補足説明をした後で、そう紹介されたから私は「こんばんは」と声をかけた。イモ、というのは妹弟子を指すのだろう。“三番目の雛”は私の方を少し吊り上がった目でじっと見た後、両の手を胸の前でひらひらと振る仕草をした。覚えがあったので、私は自分の肩に手を当ててから同じ仕草をする。礼を受けて武器がないことを表す、初対面の人への懐かしいやり方だった。
“早く飛ぶ翼”とグレイシアお姉様が少し驚いた顔をしているのが、愉快だった。
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